生物学的許容漁獲量を巡る議論

Date: Thu, 9 Mar 2006 21:37:04 +0900
皆様
本日の検討会、勉強させていただきました。以下の4点について意見を述べます

  1. 多魚種管理、合意形成、社会経済的検討について
  2. 最適化について
  3. MSYについて
  4. 資源回復か現状維持かについて
  • 1.多魚種管理、合意形成、社会経済的検討について

 多魚種管理というのは、浮魚全種で一括してTACを設定するという意味ではありません。マイワシのTACをマイワシの資源状態だけで判断せず、代替資源の状態により変えるというような意味です(スイッチング漁獲)。同時に、対象魚種の状態だけでなく、生態系全体の健全性を維持することも含めます。(来週、岡崎の「Biology of Extinction」の国際シンポで、群集生態学の観点からMSY理論とFeedback管理の注意点について話します)
 多魚種管理を実施するには、2種の漁獲物としての価値を考慮しないといけません。単一種資源管理以上に、経済的な解析が必要だと思います。
 先に生物学的観点(のみ)から許容漁獲量(ABC)を定め、のちにTACを決めるという方法は、資源回復、閾値管理などの要請からは既に非現実的だと思います。(長期的な)漁獲量を最大にするという指標だけで政策を評価できない以上、社会経済的な評価が必須であり、そのための専門家も必要であり、かつ、利害関係者も含めて評価基準を合意することが重要です。 この過程で、生物学的知見と社会経済学的知見を分けて議論するのは不適切です。
 将来、ABC−TACという決定過程そのものを見直すべきです。
 参考までに、横浜国大でまとめた合意形成の基本手順をご覧ください。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/TMreportA.html

  • 2.最適化について

 【】「制約つき最適化」に、多元的指標のパレート最適化を含むのであれば、基本的にはそれでよいと思います。ただ、制約を必ず達成できるものではなく、達成できないリスクを一定水準以下に抑えることになるでしょう。また、この「制約」とBlimit,Bbanなどの「閾値」が異なる概念であることに注意すべきです。これらの閾値は、【】「制約つき最適化」を達成するための戦略のパラメタであり、制約そのものではありません。
 私は、制約を避けるリスク管理の考えがまず重要だと思います。その上でさらに利益を最大化するというならば、それこそ社会経済的視点が必要です。失敗を避けるという使命に比べて、平均漁獲量を最大にするという使命は、後者の分散が大きすぎて、現時点ではあまり重要ではないと思っています。
 しかし、現在のABC規則とCESなどを比較するという試み自体はたいへんわかりやすいと思いました。重要なのは、Fsusなどの漁獲率を毎年変えるのではなく、Blimit、Bban、Ftargetなどを定めてそれを軽々しく変えることなく、漁業者と合意した上で、それに基づいて毎年のFを決めることだと思います。
 なお、【】理想状態とそれを達成する資源回復期を分けて議論していましたが、最適化理論自体は、両者を含めて議論できるはずです。

  • 3.MSYについて

 MSYは不確実、非定常、種間関係を考慮していない。不確実と非定常については、MSYが存在するがわからないので実用的な管理指針にならないという認識です。ただし、種間関係を考慮した場合、単一種のMSYは概念自体に破綻をきたすと思います。私は、PICESのCCCC(carrying capacity in climate change)という「概念」は望みのない冗談だと思っています。
 しかし、まだ多魚種管理を盛り込まないというのなら、「存在するがわからない」という認識でもよいと思います。非定常でも、CESはMSY概念の拡張です。レジームシフトについては、まだ十分吟味していないと思います。

  • 4.資源回復か現状維持かについて

 【】産卵場がある程度広がっていたほうが環境変動に対して「安定した」(松田の表現)RPSが確保できる、その資源水準まで回復するほうが望ましいという意見に賛成です。今度の私の水産学会の発表はそれに関係したものです。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2006/0604JSFS.pdf
 本来はその合意をここまで減る前に漁業者と交わしておくべきだったと思います。過去はさておき、現時点では、漁業者と合意していない目標(1996年水準の維持)にこだわることが果たして有効かといえば、ますます合意を困難にすると思います。ここは、今漁業者が合意できる内容で合意し、将来への約束事にするほうが現実的だと思います。