棚からぼた餅の1億円、あなたならどうするか

Date: Wed, 21 Dec 2005 00:21:12 +1200
皆様 ご協力ありがとうございました。以下の結果を集約しました。【】東大文学部多分野交流演習「環境−設計の思想」において、受講者(学部生から大学院生まで。東大文学部哲学科など所属)に以下の質問をしました*1

  1. もし1億円の落し物があった。落とし主はわかっている。ある法制度の不備から、猫糞しても違法ではない。逆に返却しても落とし主に1割謝礼の法的義務はない。あなたは自分のものにするか?その理由は? 回答 返す 18人 返さない 3人 その他 3人
  2. あなたが落とし主で拾い主が返却したら、あなたはいくら謝礼を払うか? 回答5-20%返却する 18人 返さない 2人 お歳暮など 3人 その他 1人
  3. 政府は返却金に通常通り課税するといっている。あなたが首相ならどうするか? 回答 課税する 5人 課税しない 15名 課税するが補填する 1名

 質問をジェイコム株の場合でなく、「落し物」という想定にしたのは、株のネット取引の内情を知らない人でも等しく想定できる状況での回答を求めたためである。そのため、直接ジェイコム株での意見を求めたものではない。講義の中では私の「ジェイコム株の買い手は返すべきだ」という主張を紹介し、学生や他の講師との議論を踏まえた上で回答を求めた。
 私が買い手のモラルを説いていたためか、予想よりも「返却しない」という回答が少なかった。新聞などでは機関投資家のほうが返却し、個人投資家については実名報道をしていない。しかし、回答を見ると、額が大きすぎるので、精神的にそのまま着服することは個人的にも難しいという意見が多かった。ジェイコム株の買い手の場合は、「正当な取引」か「火事場泥棒的儲け」かによって心境は異なるだろう。そして、どう報道するかによって買い手の心境は大きく異なるものと思われる。
 報道では、返却の意思表示をした買い手の「美徳」を称える気配が見えない。合法的に取得したものを自主的に返却したのであり、売り手に明らかな瑕疵があるのだから、金銭的かどうかによらず、売り手は買い手に感謝すべきであると解釈できるだろう。報道も、買い手を批判するのならば、返却した買い手の美徳を賞賛すべきである。大きな買い注文の機会があったとき、数分間の決断で買った行為自体を不徳とは言えないだろう。特に、間違いかどうかを確かめてから買った人もいるのである。
 さらに、返還しても課税されるという状況は、政府が問題の解決を妨げていると解釈できるだろう。上記の設問に対しては、美徳の実行を阻害するような法の執行には疑問の声が多かった。ただし、法の厳格さを重視した上で、何らかの補償措置(による美徳の奨励)を望む声も多かった。
 報道されている内容には、まだ返却した買い手への賞賛や、返却金への課税措置の対策を政府に求めるような意見は(私が見る限り)見当たらない。*2

*1:この演習で私は環境問題を解決するための制度での工夫を議論した。その意味では自然保護も今回の誤発注問題も類似した面がある。想定外の事態に対してうまく機能するには、制度だけでなく、協力行動を推奨するモラルが必要なのである。それがうまく機能するか、今回の事態に注目している

*2:報道によれば、返却の意思を示したUBSは、以前誤発注で100億円程度損をした経験があるという。それなのになぜという印象の報道だったが、むしろ、損をした側の経験があるからこそ、返却の意思表示をしたのかもしれない。そうだとすれば、相手の立場がわかるものが返却の意思表示をしたということを、もっと重視すべきだと私は思う。返却した企業に対する株主代表訴訟を心配する報道が目立つが、本当に訴訟する人がいるかは面白い。むしろ、返却しない企業の不徳を責める株主はなぜいないと断定するのだろうか。株主は、必ずしも金儲けのためだけに投資しているのではないはずである