生態リスク:個体レベルと個体群レベル

Date: Tue, 3 Oct 2006 10:17:25 +0900
○○さんへ
Q種の感受性分布における種の選び方について
Aこれについては、比較生態学で常に議論していることで、「種間比較」と呼ばれます。個々の種を独立にデータ とみなすのではなく、その系統樹の近縁さを考慮して重み付けするという手法が確立されています。それを使わ ないと却下されます。(といっても、私自身は使ったこと無い)
 ただし、個体群レベルのリスクについては、ほとんどの化学物質について、統計検定に耐えうる数の種を調べるとは思いませんから、上記の方法は使えません。考え方としては 、どのように種を選んだか、どのような偏りが考えられるか、野外調査によって検証する手法と組み合わせると しか言えないでしょう。 それは、個体レベルでも同じことだと思います。そして、個体群レベルの存続性につ いては、野外観察により直接検証することが可能です。存続できない濃度のところに存続しているかどうかを確 かめることは容易です。存続していればよいとは限りませんが、あきらかに過大または過小評価ならば、野外観 察との整合性が得られないでしょう。(個体レベルでは、実際に野外で死亡率が高いかどうかを見る必要がある)
Q個体レベルのリスクと個体群レベルのリスクの閾値にに一桁の違いがあるが一桁の違いはなぜ出てくるのかの説明
A個体群の内的自然増加率が厳密に0であれば、少しの個体への影響でも個体群は存続できません。しかし、個 体群には密度効果があり、個体数が減れば補償作用が働きます。漁業で魚をとり続けても魚が絶滅するとはいえ ません。個体群の存続とは、その補償作用を超えた影響の有無を見ているのです。漁業では、5割以上の親をと っても持続可能とさえ言われていますから、補償作用はかなり大きなものと考えています。

Q5%の種に以上が出る状態を閾値とすることについて
A5%に特に根拠はありません。これは伝統的な統計学の約束事だと思いますが、使う意味合いが違うので、本 来はHC5もなぜ5%かを検討すべきです。しかし、個体レベル、個体群レベルのそれぞれについて、何らかの共通の基準を定めることは、普遍的で公正な環境政策を 目指す際に必要なことだと思います。
 むしろ、我々は個体レベルの毒性と個体群レベルの毒性の対応がつかないかと考えています。上記の漁業の例 では、魚個体の死亡率を5割増やす(初期の議論では7割捕る!)ことが、魚個体群の平衡密度をどれだけ下げる か(絶滅はもともと問題にしていません)に対応させています(最も、最近このSPR論はかなり下火になった。有効性が疑われているようだ)。