予防原則と順応的管理

Date: Thu, 9 Nov 2006 16:55:28 +0900
○○様 【中略】
 予防原則PPと順応的管理AMが対立概念かどうかですが、たしかに対立的に捉える人も多いですが、CBD(生物多様性条約)ではもともとPPが謳われ、2002年に生態系アプローチが採択されてAMが使われました(たしかに、そのときの文書にはPPが登場しない)。
 しかし、Biodiversity, adaptive, precautionaryで検索すれば、【】共存するサイトはいくつか出てきます。【】たとえば国際自然保護連合の予防原則に関するサイトです。
 IUCNのPP作業部会Rosie Cooneyは比較法社会学会、外務省と水産庁捕鯨班が企画したシンポジウムにも招待された人で【】す。
 知床世界遺産科学委員会では、鹿の大発生を放置すると自然植生に不可逆的影響を与える恐れがあるとして登録地域での密度操作実験を答申しました。

【以下、議事要旨より】 要するに、今までの状況のなかで自然の推移にまかせておいては放置できないほどの、不可逆的な影響が懸念されるという認識で我々は議論を進めている。ただし、それが実証されたものではないという状況も踏まえている。ただ、そのときの議論として「予防原則」という話があったが、「不可逆的な影響が既にあるのに、放置する」あるいは、「不可逆的な状況ではないのに密度調整実験をやる」という両方の誤りの可能性がある。そのとき、どちらの誤りがより深刻かということを考えて決断を下している。

 自然をいじる側でPPを使う例は少ないと思いますが、PPは両方の側で使うべきだという主張を、生態学会委員会「自然再生事業指針」でしています。

指針18. 不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる
 自然再生事業を計画するプロセスでは、次の二つの場面において、予防原則を用いるべきである。第一に、自然再生事業をせずに放置した場合の変化が不可逆であると判断されるならば、事業の有効性の科学的根拠が不十分であることを理由にその実施を遅らせてはならない。第二に、事業において検討されているある手法が、生態系に対して不可逆な影響を与えるおそれがある場合は、科学的根拠が不確かでもその手法の採用を避けるべきである。この両者は一見相反するように見えるかもしれないが、避けるべきものが不可逆的影響であるという点で一致している。予防措置を広く適用する必要はないが、不可逆的影響に対する予防原則は必要である。

 私はリオ宣言第15原則に書かれたPPの定義の問題はさておき、「“予防原則願望”をできるだけ実現するための現実的な方法の提案」という順応的管理の理解には意を強くしました*1

中西準子さんの雑感365-2006.11.7「ナノテクリスクの順応的管理

順応的管理(Adaptive management)という言葉を聞いたことがありますか?
 この言葉、つまり概念はこれまで生態系管理の分野で使われてきた。松田裕之さんは、イミダス(2007)の857頁にその意味を以下のように説明している。 【中略】
 ところが最近、その他の分野、つまり化学物質管理やGMO(遺伝子組み換え生物)の管理でも耳にするようになった。【中略】
 米国の友人は、予防原則ではなく、順応的管理ですと言う。米国では、予防原則の対立概念として使われているという。(日本では、情緒的に、予防原則と同じ意味で使われていることもあ
る)
【中略】予防原則と言ってみても、詰まるところ、極力リスクを避けたい、そして、できれば予めリスクを回避する知恵がほしい、というところに落ち着くだろう。それには、どうしたらいいのか、それがリスク管理であり、順応的管理である。
 だから、これは原理主義予防原則には反対する考え方でもあるが、よく考えて見ると“予防原則願望”をできるだけ実現するための現実的な方法の提案とも言える。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hymatsuda/20060906に記したように、すでに国環研リスクセンターと連携して、化学物質管理でも順応的リスク管理を進める必要性を説いている