森田朗『会議の政治学』の意図を疑う

Date: Sun, 18 Mar 2007 08:25:01 +0900
森田朗東大教授が『会議の政治学』(慈学社)という本を書いている。
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/~morita/kaiginoseijigaku01.html
 行政などが専門家に検討を依頼する委員会というのがある。私もいくつかの委員をかねているhttp://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/iin.html。本書によれば、委員には以下のものがあるらしい。①バランス配慮型、②自己主張型、③自己顕示型、④専門閉じこもり型、⑤理念追求型、⑥無関心型、⑦拒否権行使型。どれも褒めてはいない。しいて言えば①が一番、行政側がくみしやすいと、著者は褒めている。ただし、このタイプだけでも都合が悪いという。⑥も行政が扱いやすいサイレントマジョリティと述べている。
 私はどのタイプかと考えてみた。しいて言えば⑤だと思うが、①、②、④、⑦も当てはまると自分では思う。理念追求型の欠点としては、その検討委員会の本題と関係ないところでも理念を述べるとある。私はそんな暇人ではない。理念を実現するためには、必要に応じて拒否権も行使するし、自己主張もするし、専門にこだわる。実現可能性を重視しなければ理念は実現できないから、当然バランスにも配慮しているつもりだ。不必要な自己顕示しているかどうかは、他者が評価することだ。ほかの用事があるときには欠席するし、関係ない議題の時まで議論に首を突っ込まないから、⑥無関心型ともいえるかもしれない。
 本書についてはこの部分を読んだだけだが、どうも著者は委員を見下しているのではないか。どのタイプだと呼ばれても嬉しくはない。多くの委員はもっとまじめに対応している。多くの学者は、忙しい中で委員を引き受けているのである。【】代わりの人に任せても物事がうまくいくならば、委員にこだわることはない。私も、愛知万博を含めて途中で辞任した委員が複数あるし、継続しなかったこともある。委員になることの名誉で満足するような委員は、それほど多くはないだろう。
 教育者には弟子の粗探しをするタイプと弟子の長所を伸ばそうとするタイプがいるが、この部分を読む限り、著者は前者のようである。委員長や検討会を組織する事務方にとっては、たしかに委員の御し方は重要だが、上策は互いに相手に自分を惚れさせ、理解させ、信用させることだ。このようなタイプ分けで事務方が委員を認識していると委員が知れば、相互信頼は生まれないだろう。
 私は、このように委員を見下す方が座長を務める委員会には出席したくない。あるいは、本書は、著者がもう面倒な委員長は受けたくないための高等戦術として出版されたものかもしれない。

Date: Tue, 20 Mar 2007 09:24:47 +0900
皆さん ご意見ありがとうございます。

 先生がご紹介された著者の意見も、多くの委員会の現実だと感じています。
 しかし、実際に行政の方々が「あの委員は○型だから」などと話しているのは、聞いたことがありません。

 それはその通りでしょう。問題は、何のためにこの本を書き、読者に何をどう認識させるために書いたのかということです。この本を読んだ事務方は、これからどう委員と接するのでしょうか?それが、委員会をよい方向に向かわせるかといえば、私は逆だと思います。
 学校の先生が、生徒とは云々と類型化することはありえるし、その対処法をマニュアル化することもありえます。しかし、そのマニュアルが生徒の目に触れたら、生徒は教師をますます信じなくなるでしょう。
 著者自身が言うとおり、真理ならTPOにかかわらず主張するというのは、自己顕示型または専門閉じこもり型など、批判の対象になります。会議の場で最も重要なことは互恵的信頼関係の醸成です。著者の類型分けとその説明は、それに貢献する表現ではないと思います。私は、そのような委員がいないというつもりはありません。どうすればよくなるかを考えた分析が必要だということです。

 例えば、ある委員が全く専門でない分野(別の専門の方がいらっしゃる)を思い込みで、いろいろと言われた場合。・・・その分野は別の○○委員にお聞きしているので、そこまで言われなくても という場合あったことがあるようです。例は少ないかもしれませんが。

この例はたしかにあります。これは注意すべきです。委員に求めているのは専門的知見であり、委員個人の価値観ではありません。もちろん、価値観が意見に反映されることは避けられませんが、価値判断は科学委員会でなく、利害関係者(の協議会など)が行うことです。
 専門外のことに口を出すこと、価値観にかかわる個人見解を述べることは、適切ではありません。また、科学委員会と利害関係者の合意形成の場を混同することも、適切ではありません。