被災者に追い打ちをかける伊サッカーチーム

Date: Wed, 25 Jul 2007 08:36:49 +0900
中西準子さんの雑感7.24に以下の記述があります。

中越沖地震に伴う事故に対する、東電柏崎原子力発電所の対応のまずさには、驚く他ない。・・・
原子力では、安全を保証するのではなく、リスクを開示するという方針に変化してきていたが、ここ数年の「安全・安心」大合唱の中で、この方向性が消えていっているのは残念である。もう一度、すべての政策について、安全を言うのではなく、リスクを開示するという態度で進めてほしい。」

 私は原発に批判的ですが、すべての原発施設の撤去までする必要はないと思っています(その理由は拙著「『共生』とは何か」現代書館参照)。しかし、今回の中越沖「原発震災」が、原発の「安全神話」を崩壊させたというのは的外れだと思います。
 第一に、あれほどの直下型大地震だったにもかかわらず、大きな事故は起きていません。あれが日本全体で何年に一度の発生頻度かは地震学者に聞いてみたいですが、あの程度の被害で収まったとすれば、原発の耐震性はむしろ実証されたといってよいでしょう。時間をかけて、ゆっくり直して頂きたい。専門家には、「これで世界で○年に一度の原発直下の大地震でも、炉心溶融などの大事故が起きないことが実証された」などの意見を聞きたいものです。
 第二に、原発のエンドポイント(起きてほしくない事態)の様々なレベルを区別すべきです。人類史的に取り返しがつかないのはチェルノブイリ事故(戦術核戦争並み?)のような大規模被害であり、今回の放射能汚染はそれよりずっと下位のものです。もちろんそれも避けるべきですが、直下型大地震で、すべてのリスクを避けることはできないでしょう。汚染あるいはその危険がある小規模の原発事故は頻発しているし、そのために原発稼働率はしばしば下がります。私は反対ですが、そのリスクを冒す価値が原発にあるという政策判断をしているはずです。
 第三に、震災という大きな被害と被災者が発生しているのに、さらに不安をあおるような報道には疑問を感じます。救援が第一です。日常と同じ感覚で原発の安全性を論じるのは、むしろ風評被害を煽っていると思います。
 もともと、「安全神話」などなく、原発のリスクと付き合うという姿勢に変わってきたというのが上記の中西さんの主張です。それを逆戻りさせたのは(無知でないとすれば)報道の選択です。
 イタリアサッカーチームが原発震災での放射能汚染を理由に来日を取りやめたというのは、地震が起きる前から日本の原発政策を批判して来日していないならともかく、被災者に追い打ちをかける行為です。実際に被災者がいる現実が伝わっていないかもしれませんが、そのために来日しないとなれば、被災者の心にはさらに傷が残るでしょう。被災した日本だからこそ、サッカーを楽しんで元気を与えようと考えてほしかったものです。
 もちろん、原発側の対応の「まずさ」は言うまでもありません。このような隠ぺい体質が、「不安」を呼ぶのです。

Date: Thu, 26 Jul 2007 09:21:16 +0900
下記の反論がありました(字句通りではありません)

1.現時点で「あの程度の被害で収まった」ということは言えない・・・
2.地震のリスク量は、原発の耐震設計の設定をはるかに超えるものであったことが報告されている・・・今回のことで原発の耐震性が実証されたとは言えない・・・そもそも、あのような活断層がある場所に原発を建てたというのは、地震のハザード計算が甘かったとしかいいようがない
3.大事故は起こっていないが安全に原発を稼働させることができなくなるような事故においても、社会的なリスクだけでなく、経済的なリスクは高い・・・
 また、イタリアのサッカーチームに対する抗議はいささか筋違い・・・日本だけでなく世界のメディアも、日本政府や東京電力の対応のまずさを指摘しているので、そのことで、イタリアのサッカーチームにやつあたりするのはいかがなものか

1.今、報道で問題にされているのは放射能流出だと思います。その量の報道に大きな間違いがなければ、そして今 炉心溶融が進行しているのではないとすれば、スリーマイル島の事故とは規模が違うと思います。私が問題にしているのは、第一に「直下型の大震災でも放射能流出さえ起きないはずだったという報道がおかしい」こと、第二にサッカーで問題にしたのは「今考えるべきは被災者の救出である」ことです。「事業者側の対応のまずさは論外である」こと、私も原発に反対だとも述べましたが、これらは今回の私の論点ではありません。
2.これが「何年に一度の直下型大地震か」が問題であり、原発の立地で「それ以上の地震が起きえるか、それが想定できているか」が問題になるでしょう。専門家が発言すべきなのはこの点だと述べました。しかし、今回に関しては、耐震設計が結果的に機能したと思います。どうも、何が起きたか、何が問題にされているかに関する認識が違うようですね。報道されているのは、放射能が漏れているかどうかです。それ以外の点については、じっくり治せばよいと述べました。【地震のハザード計算が甘かったという指摘】はわかります。今回については、ひとまず、よかったというのが私の感想です。この辺の感覚が違うようですね。【】今、重要なのは、現実に被災している状況の解決であり、何が問題なのかを正確に記すことです。私は、今回はチェルノブイリスリーマイル島でもよい)のような大規模な事故は起きていないという現時点での判断を述べ【ましたが、それに異論があるのでしたら、この点については】専門家に聞くべきでしょう。
3.【経済リスクの点は】同感です。何度も言いますが、私は原発に反対です。しかし、いま報道されている内容は、経済リスクではありません。問題を取り違えてはいけません。その問題は、あとからじっくり議論できるでしょう。しかし、報道されているような大地震の時の放射能汚染のリスクを避けるだけならば、地元の世論は変わらないでしょう。地震の損害に比べてはるかに小さいからです。問題は、【】跡地問題だと思います。これは事故が起きなくても大差ないと思います。いずれにしても原発跡地は永久に通常の人間活動に使えないと思います。その点に大きな意見の違いはありませんし、これは専門家の一致した見解だと思います。原発の是非ということなら、これが最大の問題です。
 【サッカーチーム来日中止の評価】は正反対ですね。上記は被災している人がいるという現在進行形の事態に対しては評論家すら言わないことだと思います。リスクコミュニケーションのまずさと、実際の被災では優先度が違います。今、必要なのは救援です。八つ当たりしているのは、サッカーチームだと私は思います。今考えるべきは被災者のことだと思います。サッカーチームが今すべきことは、被災者を元気づけることだと思います。