マニラ近郊Laguna de Bayの生態系リスクと途上国の科学者

Date: Mon, 16 Aug 2010 12:17:24 +0900
マニラ(近郊のラグナ湖)に行ってきた松田です。地球研プロジェクトです。
行く前は重金属とかいろいろ言われましたが、最大の問題は不法居住者と富栄養化ですね。この居住者の住環境は劣悪で、しかも湖汚染の元凶として排除対象ですが、2.5万人もいると排除も難しいらしい【】。
彼らが湖の魚を常食としても、それで健康リスクが深刻とは思えない。しかし、今後ますます富栄養化が進み、湖の堆積が急速に進むとすれば、早めに手を打ったほうがよいでしょう。
これは自然再生事業、生態系修復事業ですね。その過程で、不法滞在者の処遇をどうするかを考える社会治安問題です。堆積物の浚渫を河川と湖中で計画しているようだが、運河を一本(2本?)通して、海水と湖水を(おそらく昔のように)交換すればよいのではないか。そういったのだが、ほとんど大きな問題ではない重金属だとか、生物多様性(十分豊かに見えるのだが)など、先進国と同じことをやりたいらしい。
 と門下生に言ったら、以下のような返事が来ました。

先日,【】タイに行ったのですが,同じような印象を持ちました。問題はもっと古典的なことだと感じたのですが,先生たちは,農薬やら,医薬品やらの濃度を測りたい感じでした。あるタイの研究者は,「私は現実の問題由来の研究ではなく,論文が書ける研究がしたい」ともおっしゃっていました。(なんだか,とても悲しくなりました。)

 身にしみますね(それにしても、あからさまだ)。私は、フィリピンからの帰り道、「(社会に直接答える問題を取り組める自分は)幸せだ」と公言しました。しかし、その私も、研究予算は「論文がかける研究」によって多くを得ています。
 私の研究室は中西準子さんの一門です。社会に役立つ研究を担う研究者になっていただきたい。論文を書くために針小棒大に自分の成果を語ることはわが一門のしきたりではありません。しかし、まずは研究者として身を立てることがたいせつです(何事も、好きなことだけでは職業を得られない)。特に身を立てるまでは、論文を書き、それを宣伝することがたいせつです。
 フィリピンで私は、農薬の農業者への直接暴露のほうが問題だろうといいました。向こうの大教授も同意して、「我々はそのデータも持っている」といいました。それなら、暴露を防ぐ手引書をまず作るべきですが、たぶん、それはおいてきぼりでしょう。

実際の問題に必要な研究をやると論文が書きにくくなる,という状況が,より広いスケールで起こっているように感じました。

 うちの門下生、【地域環境学Networkを】よくフォローしています。佐藤哲さんも、地域環境研究なんていうのは実は先進国の話で、途上国ではそんな地元研究者が育つ経済的ゆとりはないといっていましたね。改めてそう感じました。