市民のクラウド資金の海洋放射能汚染調査が安心をもたらす。

全国行脚中のウッズホール海洋研究所のKen Buesseler博士の東大での公開講演会「Fukushima‐ a view from the ocean」を聞く。大いに参考になった。(1)原発事故後の放射線汚染レベルが下がっていることを述べるが、しっかり数字を言う。そして、自然の放射線水準と比較する。(2)米国政府はすでに低水準として調査していないが、市民がクラウド資金で調査を続けているのに協力している。政府が調べない理由は「無用な調査で混乱を招く」からではなく、「無用な調査に予算をかけることは納税者の理解を得られない」からだと思った。だから市民の自主的調査を妨げることはないし、彼のような科学者も進んで協力している。その姿勢が、安心を招くかもしれない。
いずれにしても、米国の海洋学者が事故直後から福島沖を調査し、日本の海洋学者とともに見解を述べていただくことで、科学的発信の信頼度を高めることができたと思う。大変ありがたい。

この水産庁グラフはKenも見せていました。国際的に情報を共有し、彼らにも使っていただくことに意義があると思います。

 ウッズホールが協力する市民が支える海面セシウム137濃度観測事業です。

Buesseller教授の講演動画がありました。

北海道ヒグマ保護管理検討会への意見

【】質問があります。

  1. クマは個体数が減っても、問題個体は対応せざるを得ない。その点でシカの個体群管理と異なる点はよくわかります。しかし、個体数が増えたときに、個体数調整をすべきではない(シカと事情が異なる)という論拠は何がありますか(社会が望んでいないというならば、それは一つの立派な答えです。それ以外にありましたら伺いたい)。
  2. 札幌を含む積丹恵庭が絶滅危惧個体群に指定されたままの対応をどうなさるつもりでしょうか。繰り返しになりますが、①絶滅危惧個体群であることを理由にできるだけ補殺しない、②環境省に絶滅危惧個体群解除の可能性を打診する、③環境省に特定希少鳥獣管理計画(第3種)の策定を打診する、④環境省から絶滅危惧指定のまま個体数調整してもよいという返答を得る(これが一番厄介だと思います)。この軸足はいつ定まるのでしょうか。

Date: Mon, 21 Oct 2019 09:26:51 +0900

  • もっと出没するようになれば、ごみ収集場の管理強化は近い将来必要だろうが、その不備が今日の事態を招いたわけではない。ごみ管理だけでは解決にはならない。
  • ちゃんと駆除しておけば、たとえ近くに来るクマがいたとしても、人の目に触れないようになるだろう。今はクマが人を避けなくなりつつある

 

鹿の「食害」の良しあしも、クマとの共存方法も、個体数次第

 Date: Fri, 11 Oct 2019 10:35:59 +0900 Facebook

シカの保護管理検討会として丹沢山を見せていただいた。以前は1枚目のような裸地が至る所にあったが,かなり植被率が改善していると感じた(丹沢全体がそうではない)。2枚目の堂平沢の堰堤がある沢も完全な裸地だったが,緑が戻っている(種が問題)。丹沢山一帯は1997年ころから植生保護柵を作り,丹沢では早くから対策を立てた場所という。古いものと新しいものが併設された保護柵も随所にあり,説明書きが微妙に違う。以前は「平地の開発で追い上げられた鹿による食害から」と書いてあった。その後,平地も山もシカがびっしり増え,私も検討委員に招かれた。当時,この「食害」という表現に,ある専門家から、シカの摂食は食害というべきではないというような異論がついたそうだ。たしかに、全くシカを排除した植生はむしろ不自然である。しかし、シカが過剰になってその「食害」で絶滅が危惧されたり、地域絶滅した植物は多い。丹沢では土壌侵食も進んでいた。シカが低密度であれば生態系過程の一部となる摂食も過密になれば食害になる。状況に応じ、解釈と表現は変わってよい。
 それはクマも同じだ。個体数が少なければ野生のクマは保護されるべきであり、人間の不適切な対応がなければ共存できる。しかし、過剰になれば、人間側に落ち度がなくても人間に無害とは言えない。クマ学者も、シカの経験から、そのことに気付いてほしいものだ。

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一部の風車に集中するオジロワシ衝突事例

午前10:01 · 2019年9月28日 Twitter

オジロワシがよくあたる風車は集中している。この度、苫前町の風車3基が撤去された(苫前町)。この施設の3基の風車だけで2015年までの発見死骸45羽のうち16羽以上が当たっている。撤去までに時間がかかったが、過去の経験から、衝突リスクは減らすことができる。

過去の衝突事例は「海ワシ類における風力発電施設に係るバードストライク防止策検討委託業務報告書」(H27年では資料6/6の資-40頁)にある。風車名は匿名だが、E-2とE-3にそれぞれ9羽と5羽【1羽は保護された】の衝突発見例があることがわかる。

その間、幸いにして、オジロワシ留鳥は増えているようだ。白木彩子さん「当初発見されなかった巣が後年の調査で確認された営巣地も多いと考えられるが、それでも増加傾向にある」という。

今後風車の数が増え、それに比例して衝突死も増え続ければ減少が危惧されるが、当たりやすい風車がわかれば、衝突数を抑えることができるだろう。本来なら民間負担でなく国策として、よく当たる風車の撤去予算を補助いただけるのが一番だと思う。風車と猛禽個体群は共存できる。

マサバ太平洋系群はいまだに乱獲されている?

Date: Tue, 24 Sep 2019 12:32:03 +0900*1

 各魚種系群のMSYやABCを算出する際に用いる汎用genericモデルというのが少々機械的すぎるのではないかと思います。それが「科学的」とはいえません。少なくとも,マサバの場合は減少期のRPSを除いて1991年以後のデータを使うなど,少し解析手法を工夫すれば変わるかもしれません。当分は現状の漁獲量で問題ないように思います。
 そうしないと,たとえば激減期にはABCが0,定置網にかかったら全部放流しろなんて変な話になりかねません。MSY概念は過程誤差,レジームシフトなども考慮したものに変わったから,古典的MSY批判は的外れと言っていますが,過程誤差は考慮しているが,種間関係とレジームシフトはGenericな手法としては実際には考慮していないようです。マサバにおけるレジームシフトによる自然変動は統計的には不明確なのかもしれません。しかし,やはりマサバ太平洋系群の神戸プロット(図1*2吹き出し文言は松田)は不自然に見えます。2008年ころから,過剰漁獲なのに極めて順調に増え続けているという理解になります。

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*3

 ただしF>Fmsyでも,資源が回復しないとは限りません。Replacement line(翌年のBが今年のBと同じになるf)というのは神戸プロットの中に描けるとは思います(図)。それでも,HSのときのreplacement lineは,B<BmsyではFmsyに一致する(B>Bmsyのときは右下がりになる)。

マサバ太平洋系群の場合,2008年ころから,一貫してRPSは異常に多いために(平均的には減るはずの資源が)増え続け,初めて2017年に減ったという理解になる。やはり,レジームシフトをマサバにも考えるほうが妥当な気がします。

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*5
 

*1:後日譚https://hymatsuda.hatenablog.com/archive/2023/05/16

*2:2022/5/21 リンク先修正

*3:図を追加【。吹き出しは松田加筆】。散布図の一つだと思うので,私はチャートでなくプロットと呼ばせていただく

*4:【加入率の過程誤差、】齢構成等を無視した単純な【古典的】モデルによる模式図です。マサバの資源評価に用いているHS型の再生産曲線では左図赤線のようにFrep=Min(r+S-1, rB*/B+S-1), BH型では右図のようにFrep=r/(1+kB)+S-1となります。

*5:コメント2の出典にある図です。吹き出し加筆は松田

漁民の顔を見ずに計算するのが、「科学のみに根差す」資源管理ではない

Date: Thu, 5 Sep 2019 10:54:57 +0900
 【】水研の資源評価とABC新ルールに関しては、水産庁が研究機関(水研)の独立性を尊重する。各魚種のTAC化の是非や資源評価の施策展開については行政マターなので水研はかかわらない。逆に、資源評価については水研主導で進め、水産庁は関与しない。水研は水試や漁民とは調整しない。実際のTACや資源再建計画については(TAC魚種になれば)水産庁ステークホルダー会議を組織して、漁民の声を聞く。そういう方針に見えます。
 しかし、資源評価はデータを現場(水試)からもらって計算しても、現場感覚に合うこともあれば合わないこともある。そのすり合わせをしてこその資源評価だと思います。
 世界的にはどうなのだろうか。IWCでは、クジラなど見たこともなさそうな統計学者が資源評価で幅を利かせていた。似たようなもの(現場感覚がない資源評価が横行している)かもしれません。
 その意味では、日本でも、最近の資源評価にかかわる人材の過半数水産学部出身者ではない。魚類学者ですらない。
 私も水産学部出身ではない数理生物学者ですが、生身の生物と漁民に接する野外生態学者、魚類学者、水産学者をRespectしてきたつもりです。理論はSFの産物。現実に合うかどうかは常に現場の意見と付き合わせねばわかりません。まして、資源評価は自然死亡係数や生態系総合作用(の無視)など、未実証の仮定を用いた砂上の楼閣です。それでも役立つと私は思っていますが、現場の感触を常に気にしていなければ、危ういでしょう(哺乳類学者の見解を私のほうが修正させたのは、エゾシカの12万頭説でした。現場を見ても、絶対数はわからないのだと実感しました)。
 漁民の顔を見ずに計算するのが、「科学のみに根差す」資源管理と誤解しているようです。

追記(2019/9/7)

Date: Thu, 5 Sep 2019 13:16:59 +0900

昔の学者は、漁民の連れ合いに自分の連れ合いまでつるしあげられたがひるまず説得した、なんて「武勇伝」を言いまくる人もいました。
 もちろん、自主管理のみでうまくいくとは限りません。しかし、せっかく改正漁業法(持続可能性の説明責任が求められ、それがなければ漁業権は召し上げられる)という極めて強力なツールができたのですから、今こそ、漁業者の合意を図ることが重要です。
 ステークホルダー会議などを設ける点では、水産庁もそれを意識したと思います。環境NGOも入れるべきだという提案も受け入れられると理解しています。

Date: Thu, 5 Sep 2019 12:20:39 +0900

漁獲枠配分を決めないまま、ABCだけを減らし、来年からTACを導入すればその時初めてStakeholder会議で漁民の意見も聞く場ができるよう(その場では、科学的な議論はなく水研はいない)では、クロマグロの二の舞か。

市街地でヒグマ捕殺がやむを得ない理由

Date: Fri, 16 Aug 2019 05:48:18 +0900(一部改変)

 クマに出会わないために市民ができることは,札幌市のサイトが参考になります。

 今回のように農作物を荒らすクマが頻繁に札幌市街地に出没した場合,クマへの対策が必要というのは多くの方に理解されるだろうが、殺処分しかないという点は丁寧な説明が必要でしょう。

 その説明を私なりに考えて探してみました。より明解な説明や不完全な点や根拠サイト等がありましたら教えてください。

  1. 道総研サイトが詳しい。【「基本的には、ヒグマも人を避けて行動している」とあるが、これは段階0だけだろう。本当にクマ鈴で今後も大丈夫だろうか。まして,生け捕り放獣を増やせば段階2の野生熊が増えていく。】
  2. 生け捕り熊の引き取り手が少ないことは共同通信サイトが短くて比較的わかりやすい。しかし、もう少し数と経費の計算をしてもよい。1頭の飼育に1年あたり〇万円かかり、平均〇年飼育するとすれば〇万円、北海道で毎年600-800頭が捕獲され、そのうち許可捕獲が約5-600頭、約〇頭の人材育成捕獲を除けば問題個体への必要な対処であり、生け捕りにするには北海道だけで年間〇億円の資金が必要(飼育施設の大幅な拡充費用は別途必要)。道予算として全体の担保はできないだろう。全国のクマの殺処分頭数等については2011年の衆議院答弁にもある。生け捕りで対処できない数であることは、多くの人が納得するのではないか。
  3. 学習放獣、奥山放獣の効果が薄い点も説明が必要。少し古いが環境省サイトにある。【最新情報があれば私も知りたい】。
  4. 特に市街地での生け捕りの手段が限られていることと危険性についての説明が必要。箱罠にかかれば技術的には可能だったはず。麻酔銃は市街地のクマには使えない(環境省サイトの4頁)。
  5. 動物倫理の観点からの議論も避けるべきではない。National Geographicの記事。しかし、あくまで生け捕りや放獣は現実的に実行可能な方法ではないことが重要。また、なぜ農林業と自然植生への害獣であるシカは捕殺してもよくて農林業と人身被害の害獣であるクマの捕殺はいけないのか(両方いけないというならまだわかる)。自分が食べるための家畜は殺してもよくて,人に危害を加える恐れのある野生獣の殺生はいけないのか。欧米では動物倫理に敏感な学生たちを含め、この四半世紀の間に家畜も食べない菜食主義者が増加している(JTB総研サイト)。彼らなりに一貫しているが、その思想に共感する人だけではないことも理解していただきたい。また、命を奪ったら有効利用すべきという主張は,北海道のエゾシカ管理計画にも反映されている。クマでも多くは実際に自家消費しているだろう(元クマ猟師サイト)。