計画への市長声明について

Date: Sun, 4 Mar 2007 07:17:50 +0900
加賀市地域振興部環境安全課生活環境係 担当者殿
 電子メールで失礼します。私は横浜国立大学教授の松田裕之と申します。生態リスクマネジメントを専門としています。風力発電の鳥衝突問題についての環境影響評価を研究中で、貴市に隣接するあわら市の風発計画でも事業者から相談を受けています。
 下記の加賀市の公式サイトに掲載されている加賀市長の見解には驚きました。http://www.city.kaga.ishikawa.jp/article/ar_detail.php?ev_init=1&arm_id=101-0114-8173

あわら市における「風力発電施設」建設に係る野鳥等保護について、下記のとおり加賀市と(財)日本野鳥の会等が共同記者会見を行うと共に、関係機関に要望書を提出しました。なお、同記者会見の席上において、市長は、現時点での民間事業者による計画に反対する意向を表明しました。」
風力発電施設計画者は、風力発電施設の調査計画に際し、片野鴨池の生態系及び鴨池をねぐらにし坂井平野を餌場として活動するマガン、ヒシクイ等希少鳥類の生態について、風力発電施設に係る充分な環境影響調査を実施し、同施設建設による鳥類への悪影響が一切出ることのないよう慎重な対応を実施すること。」

 風力発電環境影響評価法の対象事業ではありません。しかし、加賀市長が反対しているあわら市の風車計画では、事業者が自主的に環境影響評価を行っています。それを法の趣旨にできるだけ沿って慎重に行ってほしいという声明ならば理解できます。
 しかし、「一切の影響が出ない」というのは、環境影響評価法の趣旨ではありません。事業を行う以上、そのようなことは原理的に不可能です。影響が懸念されるからこそ、それを回避、低減、代償する環境保全措置が法によって求められているのです。法の対象事業ではない風発事業に対して、法でさえも求めていないような措置を求めていることになります。
 環境影響評価法では、騒音などの工学系の評価についてはある基準を設けて、それを達成する「目標クリア型」の保全措置が求められます。基準を達成しても影響が一切ないということではありません。それは社会的に許容される影響の程度を定めたものであり、それを満たしていても、周囲に迷惑をかけていないと事業者が考えてよいとは言えません。注目すべき生物への評価については、このような基準はありませんが、「実行可能な範囲」で回避・低減・代償措置を採るという「ベスト追求型」の措置が求められます。この場合も、影響の対象が問題であり、天然記念物のマガンが1羽でも当たってはいけないという意味ではありません。懸案の片野鴨池の場合に重要なことは、ラムサール条約登録地に越冬する雁鴨類が今後も存続し続けることです。
 片野鴨池をねぐらにして越冬する雁鴨類は、マガンについては福井県あわら市にある採餌場を利用しています。鴨池と採餌場の両方の保全が必要です。したがって、ラムサール条約登録地である片野鴨池に飛来するマガンの価値は、加賀市だけでなく、採餌場のあるあわら市との共有財産です。鴨池と採餌場の双方を守ることが重要です。
 言うまでもなく、地球温暖化対策は環境問題の最優先事項です。風力発電は有力な対策の一つです。鳥や景観への影響を可能な範囲で回避・低減し、風力発電事業との共存を目指していきたいと思っています。
 一度、加賀市役所を訪問したいと存じます。ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

片野鴨池観察館

Date: Fri, 9 Mar 2007 10:26:56 +0900
 【鳥が観察館の】近くまで寄ってくるといっていましたね。避けているのは、もともとの池でなく田んぼだったからというせいもあるでしょうが、風発が稼動しなくても邪魔という意見を言うなら、観察館のほうがはるかに邪魔だったと思います。
某月某日
今やオオヒシクイが館のすぐ近くの水面まで利用しているそうですが、建設当時は影響を心配する声は出なかったのでしょうか。水面上でも建設物を避ける傾向はあると思いますし、池の利用可能な面積が狭まる可能性はあると思います。
 先進国の湿地では、観察館を建てる位置や鳥側から目立たないようにする工夫など、ずいぶん配慮していると聞いています。
 野鳥の会がこの施設に賛成しているかどうかしりませんが、鴨池観察館は加賀市の施設ですから、一切の影響を避けることを隣の市に求める加賀市長は、自分の施設の影響に対しても、毅然たる態度をとられることと思います。

3.30環境省・エネ庁第1回風発検討会

Date: Sat, 31 Mar 2007 08:43:28 +0900
 本日 環境省・エネ庁第1回風発検討会がありました。野鳥の会の委員がいくつか風発の事例を紹介したとき、これは悪い例ではなく、よい例という紹介をしたのには驚きました。また、抽選前に検討会を開いた汐首岬の例を出し、この事業が(抽選で外れて)なくなったのは残念といったので二度びっくり。
 私が風発の鳥個体群に対する影響が大きくないことが客観的に示されたといったのに、野次さえ飛ばなかった。ずいぶん建設的な議論が出来るようになったと感じます。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2007/windfarm.htmに近々詳しく紹介します。議事録h*1もそのうち公開されるでしょう。【】
 ちなみに、日本の自然公園は欧州とも米国とも制度が違います。広く緩い規制をかぶせています(浦野絋平・松田裕之編著(2007)「生態環境リスクマネジメントの基礎―生態系をなぜ,どうやって守るのか―」オーム社の加藤峰夫論文 参照)。特別地域がどれだけかは知りませんが。知床世界遺産では漁業が営まれ、トドの捕獲さえ許されています。

*1:ttp://www.env.go.jp/nature/yasei/sg_windplant/index.html

風力発電と戦略的環境影響評価

Date: Wed, 28 Mar 2007 23:50:08 +0900
 今朝【3/28】の朝日新聞に、発電所はSEAから外れたと報道されていました。
 30日に風発の検討会がありますね。風力だけでも戦略影響評価(SEA)を行うという目はないでしょうか?風発は大手電力会社と異なり、彼らに売電する企業が中心ですから、利害は異なるでしょう。通常は内々に計画段階で立地や費用便益などを量るはずなのに、抽選で決めるという身もふたもないやり方を大手電力会社がやっています。風発をどこに建ててもだめと公言する人は保護団体にもいませんから、むしろSEAになじむともいえるでしょう。
 SEAを風発に適用すると何が起こるか、もう少し具体的に示しておかないと、事業者も怖くて乗り気にはならないと思いますが、うまく指針を作れば、彼らも乗り気になるかもしれないと思います。

Date: Thu, 29 Mar 2007 19:22:20 +0900
 長野の【入笠山の計画の】ような後出しの規制でなければ、SEA(戦略環境評価)はまじめな事業者にとってもそれほど大きな問題ではないと思います。
 今のままでは、食料、エネルギーに加えて、日本は排出権も海外から買いまくる3つの低自給率になるでしょう。エネルギーは20年後まで輸入がもつかもしれませんが、食料と排出権は近い将来 需給が逼迫し、価格が高騰する可能性が高いと私は思います。
 温暖化対策は環境問題の中でも喫緊の課題です。この認識は環境省自然保護団体も共有していると思います。鳥の影響の強いところは嫌、国立公園内は嫌という否定的意見でなく、どこに作るべきかという建設的な意見ならば、多少の利害対立はあっても、十分合意はできるでしょう。(私も、国立公園内の建設にこだわるつもりはありません。山奥に作るよりは、国立公園の海岸線のほうが有利だろうと思うだけです)
 国立公園【の・・・】内に作るときは、一定規模以上の事業では計画段階での手続きが必要らしい。実質的にSEAに近いものにせざるを得ないようです。ガイドラインをきちんと作ればよい。
 問題は、抽選に当たってから2-3年?以内に操業開始を求めるなど、大手電力会社の硬直した態度です。予定通りなら2年でできるが、調査の結果新たな保全措置を追加するとなると、2年以内など約束できません(愛知万博と同じ)。勢い、事業者の透明性はDiscourageされます。より柔軟な態度が必要です。【】

3.16横浜国大シンポジウムのお礼

Date: Mon, 19 Mar 2007 17:01:23 +0900
講演者の皆様、当日は慌しくしていまして、行き届かぬ部分が多々あったと思いますが、皆様のおかげで大変実りあるシンポジウムを開催することができたと思います。 ありがとうございました。
 このシンポジウムの講演録は私の風力発電サイトからたどれるサイトで6月末までに公表する予定です。
 風発関連のサイトに紹介が載っていますので、このサイト管理者のお名前は存じませんが、お知らせします。
 風車が鳥類に与える影響について科学的な研究がほとんど行われていないこと、風力発電事業者が運転後の鳥類のデータをとるべきというのはその通りだと思います。私の希望としては、その事後調査に野鳥愛好者に協力いただきたいと思います。ただし、事業者に雇用されるなど「買収される」という認識のようですから、共同調査のようになるでしょう。
 せっかく鳥対策が風発の大きな社会問題になり、事業者側も対策の必要性を認識しているのに、反対派が「一切の影響」がないよう求めていては、交渉になりません。条件闘争でも敷居が高ければ実質的に反対闘争にできるのですが、現実には、鳥対策は抜きにして事業が進んでいると思います。これは、野鳥関係者にとってももったいないことだと私は思います。
 会場で【私が鳥学者の参加が少ないと指摘したことに対して、ある鳥学者】が「風車が鳥類の個体群に与える影響は心配無いのでは」と言っていました。たしかに、もっと鳥個体群への影響について危機感があれば、より多くの鳥学者が関心を持つでしょう。
 欧州では全電力の2割を風発で担う構想があると聞いて、元気が出ました*1。日本でも大幅に風発を増やすことを視野に入れて、風発の議論を進めるべきでしょう。まず、計画段階での立地選定を含めた環境影響評価を行い、その中で鳥への影響も科学的に考慮されるようになればよいと思います。
 そのためには、賛否双方が信頼できる専門家の関与が必要だと思っています。
 ご異論はあるでしょうが、議論は続けたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

*1:安井先生のサイトも参照

3.16シンポジウム会場準備など、ありがとう

Date: Fri, 16 Mar 2007 23:52:37 +0900
松田研M1 杉本寛さん、皆さん
本日は立て看板、道しるべ、マイク、照明、受付など、手際よくやっていただき、ありがとうございました。おかげさまで、大変有意義なシンポジウムを開催することができました。
 横浜国大は始めてくる人には不便な場所ですが、道案内のおかげですんなりくることができたようです【】。今後もさまざまなイベントを来年度に仕掛けますので、また、機会がありましたらお手伝いよろしくお願いします。
 重ねてありがとうございました。

風力発電と水素燃料電池

Date: Mon, 12 Mar 2007 16:44:58 +0900
以下の論文は面白いです
M. Z. Jacobson et al. Cleaning the Air and Improving Health with Hydrogen Fuel-Cell Vehicles Science 308:1901-1905 DOI: 10.1126/science.1109157 Supporting Online Material
細かいところは異論もありそうですが、(風力発電で)燃料電池を作るのは、環境にも健康(大気汚染物質)にもやさしいというもの。素人考えでそう期待していましたが、実際に議論されているのですね。
 下記サイトもご覧ください。こちらは原発と風発の組み合わせを主張している。【私は疑問ですが】
 まだコストの問題がありますが、*1電池ならば(素人考えでは)現地生産が可能で、送電線を引っ張る必要はないかもしれないと思います。洋上でもよいでしょう。

*1:そもそも、現在の石油と費用の比較をする必要はない。化石燃料資源は有限であり、いずれ欠乏し、高騰します。その前に、代替エネルギーを開発する必要があるのです。正味で持続可能に採算が取れるならば、将来のエネルギー源として有望です。風発では水から水素を得るのですから、廃棄物や素材などを別にすれば、エネルギー源は無限ともいえます