公開シンポ「屋久島生態系の保全」

皆様
 10.8公開シンポジウム「屋久島生態系の保全−希少植物とヤクシカの動態を中心として−」に参加いただきまして、ありがとうございました。私が長々と話してしまったため、終了時間が10時を過ぎてしまったにもかかわらず、最後まで100人以上の方が討論に参加されました。
 寄せられたアンケートは全講演者とも拝見しました*1。シカの有効利用の意義について何人かのかたからご意見をいただきました。エゾシカでは、大きな囲いわなで生け捕りにして一時的に養鹿してから鹿肉を出荷する試みも行われているそうです。ただ、屋久島のような急峻な場所でわなを仕掛けるには工夫が必要かもしれません。(朝日新聞記事
 個体数のモニタリング、減らすのに必要な捕獲頭数について議論されました。私が述べたのは、絶対数はなかなかわからないけれども、増えたか減ったかという相対指数はある程度調べられるし、これが鹿の管理に必須のものであるということです。鹿を減らすために必要な捕獲頭数は、絶対数×自然増加率から求められます。ところが絶対数がわからないなら、どうすればよいでしょうか。
 絶対数はとってみればある程度わかります。自然増加率(エゾシカでは年15-20%と推定されています)がわかり、獲った数がわかれば、そこから逆算できます。たとえば自然増加率が年15%で、牝鹿を1000頭とって減ったのなら、牝鹿の総数は1000÷0.15=6667頭ですから、それより少ないと考えられます。一夫多妻の鹿の場合、牡鹿の数はせいぜい牝の半分程度、だと考えられますから、成獣1万頭以下だと考えられます。このように、自然増加率と個体巣の増減と、実際に取って減らしてみれば、個体数の上限はある程度推定できるのです。エゾシカと異なり、ヤクシカの自然増加率はもっと低いかもしれません。それならば、実は鹿の数はもっと多いことになります。
 屋久島南部の鹿がそれほど増えていないとすれば、この間に捕獲した頭数から、南部の鹿の個体数を推定できるかもしれません。それと、立澤調査隊の目視調査によるヤクシカの分布情報を考えれば、西部や北部の個体数についてもある程度の推定が可能と思います。
 来年は、こうした討論の場を増やして、さまざまな意見の方と意見を交換し、知床科学委員会の議論として紹介したような科学的な共通認識を深め、島民のかたの意思決定の基礎情報を提供していきたいと思います。
 その際、屋久世界遺産の問題を単に生態系保全の問題として捉えるのではなく、農林業との共存を図ることが重要と思います。生態系は地域ごとに人との関わりを含めた歴史の中で維持されてきた。いつの時代でも、生態学会生態系管理専門委員会がとりまとめた「自然再生事業指針」の第5原則「人と自然との持続的なかかわり」を守るということが重要です。屋久島に農業と林業があって守られてきた世界遺産の自然というところに価値があります。この関係を後世に伝えていくことが重要です。世界中で、世界遺産に指定されたら鹿が増えすぎて自然植生が損なわれたという事態が起きています。世界遺産地域では狩猟ができないとあきらめるのではなく、今までどおりの人と自然の関係を重視することが大切です。それが、今まで守られてきた自然を今後も守っていく最も有効な方法だと思います。
 最後に、二日間にわたり地元のかたがたが準備された講演会後の懇親会に参加し、すっかりご馳走になってしまいました。この場を借りてお礼申し上げます。

*1:2005.10.11矢原日記にリンク