サイモン・レヴィン京都賞講演会(2)

Date: Sun, 13 Nov 2005 13:05:51 +1200
○○様、みなさま、こんにちは。 今日は大阪、リスク研究学会です。参加者160人ほどの学会で、思ったより小さな学会でした。(これでも例年より少し多いとか)
 少し補足します。サイモン・レヴィンはモラル形成過程の動態を数理モデルで扱ったのであり、基本的には自分が特定のモラルを語っているという形をとっていないはずです。しかし、「持続不可能性」にある8つの戒めのうち、最後の二つ「7.信頼関係を築け」と「8、あなたが望むことを人にも施せ」という戒めは、それらの「モラルの科学」からは導出されません。しかしそれは、ロバート・アクセルロッド「複雑系組織論」から推奨されると私は書評で述べました。
 保全生態学をはじめとする環境科学は、環境を持続可能に維持したいという人間の価値観を前提として、それを達成するための科学的方途や、その「価値観」の科学的起源や内容を問うものです。特に後者は、倫理学と呼んでもよいかもしれません。私は倫理学者の集まりにも時々参加しますが、そのとき、倫理学者が自分の倫理自身を語ることに終始し、倫理観を客観的に分析する科学者として振舞っていないと感じたことがあります。
 もう一つ、サイモン・レヴィンの講演で印象的だったのは、進化的安定戦略(ESS)という概念を不完全な概念と明言したことです。昔は「最適化」理論で進化生態学の現象が説明できるような研究が盛んだったが、そう単純ではない、今は複雑適応系としてより動的な解析を行っていると述べていました。その中で、私も奨励するconvergence stabilityのほうがより正確な概念であると紹介していました。
 残念ながら、彼の講演にはリスクの話が出てきませんでした。早速彼に生態学会生態系管理専門委員会「自然再生事業指針」の英文要約と横浜国大21世紀COEでまとめたRossbergほか"Guideline for ecological risk management"を送りました。
 彼が開拓した「空間生態学」は、時空間尺度の違いを意識することの重要性を説いたものです。しかし、実際にヤクシカエゾシカ奄美ジャワマングース、石西礁湖のオニヒトデ対策などを考える際に、空間情報の重要性は明らかです。単に総個体数を管理するだけでは、人と野生動物の共存はうまくいきません。これは私の科研費「生態系管理の順応的制御ルールに関する群集・空間生態学的研究」で取り組んでいることです。
 なお、【来年度は】今年から参加している学振の外国人PDのTapan KARさんとあわせて3名のポスドクに恵まれます。【】