国連海洋法条約非公式会議

Date: Tue, 13 Jun 2006 11:18:39 -0400
○○先生、皆様  国連本部より松田です
 12日から16日までニューヨークで開催されるUN Open-ended Informal Consultative Process on Oceans and the Law of the Sea (国連主催の第7回「海と海洋法条約に関する時間無制限非公式協議」)に、日本政府の推薦で登壇討論者(Panelist)として参加している。今回の主題Discussion Panelは“Ecosystem approaches and oceans”(生態系の取り組みと海)というもので、下記のように、その初日の議題「生態系の取り組みの概念を啓蒙し、その意味するところを理解する」で話題提供した*1。以下の登壇討論者が招かれていたが、米国NOAAのSteve Marawskiは私と同様、生態系の取り組み(Ecosystem Approach =EA)というものがまだ実体のないものであることを強調していた。最初の議長の提案ではEAの定義が曖昧だということだったが、登壇者の間で定義に特に違いはなく、問題はEAの実態がないことであった。その点で、Steveの意見に全面的に賛成した。

  • Demystifying the concept and understanding its implications (12 June, 3-6 p.m.)
  • Mr. Salvatore Arico Biodiversity Programme Specialist UNESCO
  • Mr. Simon Cripps Global Marine Programme WWF-International
  • Mr. Hiroyuki Matsuda Yokohama National University, Japan
  • Mr. Steve Marawski National Marine Fisheries Service National Oceanic and Atmospheric Administration (NOAA), USA

 Steveを呼んだのは議長団のようであった。WWFから来たSimon Crippsも、本人は生態系の取り組みをholistic approachと呼んでいたが、私のやり方が全体論的でなく、pragramticであることを理解し、そのような方法もあると二度にわたって会場からの各国代表の質問に対して彼が説明していた。また、MSY批判を行う私に対しても、特に異論はないと発言していた。会場からは、国連海洋法条約はMSYに基づいているので、それに代わる根拠は何かと二度も聞かれた。最初はSustainable Useでよいと答えたが納得されず、MSYは不確実性に脆いのでWise Useでよいのではないかと答えた。
 会議中に、会場に紙でも配った私のスライドをぜひほしいという人がいた。○○の人もわざわざ「面白かった」と声をかけてくれた。私の主張を気に入ってくれたようである。
 少し緊張していて、24枚のスライドを持ち時間10分(実質15分になった)で話したので、いつもに増してめちゃくちゃな英語だったが、冗談は隣にいた秘書にも受けていたので、少し安心した。あの専門用語の混じった文法のおかしな英語を国連公用語4ヶ国語に同時通訳したのは大変なことだ。事前打ち合わせも何もない。国連の同時通訳というのはきわめて有能なのだろうか。
 夕方、議長の招きで国連カナダ事務所で懇親会。特に重たい料理はなく、ビールとワインとスナック(とシシカバブ)だったが、パネリストだけでなく、各国代表など狭い部屋に大勢の人が来ていた。
 午前中の会議で気になったのは、皆美辞麗句のようにEcosystem Approachを賞賛し、海の生態系が破壊されているように言っていたが、ほとんど取り組みに中身がない。自国の漁師をいかに説得して漁業管理をするかなどの議論は皆無で、深層トロールをやめようとか、公海に海洋保護区をつくろうとか、捕鯨禁止の南氷洋sanctuaryを賞賛する(あれは捕鯨以外の漁業は禁止していないので、少なくとも生態系の取り組みではないということは理解していないのだろう)様な発言ばかりが目に付いた。そこで、陸上の生態系のほうがはるかに破壊されていると発言し、陸上生態系の管理と成果や手法を共有すべきであると主張した。
 懇親会のときに気になったのは、ある人と、マグロなどの上位捕食者が9割減少という説は過大評価だという点で意見が一致したとき、「アメリカではいかに生態系破壊の誇大な結果を出すかで競っているように思う」と私が言うと、あたりを見回しながら声を潜めて「そのとおりだ」と答えてくれたことだ。こんな発言は日本では公言できるし、それで科学者としての評価を損なうことも、環境団体から反感を買うこともない。この点に関しては、(欧)米は日本より不自由だということがわかった。 ある人に、political scientist(御用学者をこう訳した)には二通りあって、政府の言うことばかり聞くものと、環境団体の言うことばかり聞くものだというと、あからさまに不愉快な顔をしていた。その人は社会科学者だと言っていて自然の権利の提唱者であるChristopher Stoneを知っていると言っていたが、Christopherはそのような二つの御用学者とは明確に一線を画している。しかし、彼のような学者ばかりではないのだろう。