国際漁業研究会シンポジウムを終えて

関係各位
本日は国際漁業研究会シンポジウムへのお招きありがとうございました。
 講演要旨に載せたこと以外に、私が申し上げた主張は以下の通りです。

5. 漁業の未来について
 漁業は健全な海洋生態系の健全性の指標でもある。たしかに漁業人口は減り、政治的存在感は減るかもしれないが、産業としての位置づけだけでなく、環境政策の中でその重要性を認識すべきである。海外の環境団体の主張には、むしろ漁業を敵視する向きもあるが、日本の多くの生態学者は、農林水産業を自然保護の不可欠な要素と認識している。
 遊漁も広義の漁業の中に位置づけるべきであり、いわゆるIndustrial (capture) fisheryだけを漁業とみなすべきではない。
 産業としてのみ漁業を捉えるのではなく、自家消費なども含めて考えるべきである。ある程度地域の自給率を高めておかないと、自然保護においては、地域の主体的な取組みが担保されない。そのためには、地産地消の比率を高めるほうがよい。
 加工、流通、消費者も含めて利害関係者を築き上げれば、水産業界は決して漁業人口ほどには少なくはない。

6.環境を守る漁業を推奨する国際的な基準作りが必要
 製品としての費用と性能だけを考えれば、水産物は工業製品のように時代とともに進歩するとは言えない。しかし、持続可能性に配慮した水産物を差別化することが必要であり、それは時代とともに進歩するはずである。それを認めないのは自由貿易体制である。環境団体も含めて、責任ある漁業に基づかない水産物の貿易自由化には反対している。適切な管理に基づく水産物の認証制度を確立すれば、漁業の振興と環境保全のpositive spiralが期待できる。

7.補足
 私は生態学者ですので、今回環境という側面から漁業の重要性を指摘させていただきましたが、当然、食糧という側面からも漁業および一次産業は重要です。周知のように、日本は先進国で食糧自給率が飛びぬけて悪い国です。これは安全保障上大きな問題であるばかりでなく、生態学的な物質循環から見ても問題があると思います。食糧自給の確保の重要性は、産業の経済規模だけで評価できるものではありません。
 今後ともよろしくお願いします。