チリの漁業事情

Date: Tue, 5 May 2009 06:26:56 +0900 (JST)
チリ滞在中の松田です。
チリの漁業はたいへん参考になると思います。私を招待してくれたJuan Carlos Castilla教授はさまざまな人脈をもつ強力な人材です。オバマ政権でNOAAのボスになったJane Labchenkoとも共著論文があり、著名な生態学者Robert Paineとも近しい。Labchenkoらの海洋保護区の取り組みはPISCO(チリの酒の名前)といい、彼の臨海実験所(Las Cruces)もそのサイトの一つです。http://www.piscoweb.org/outreach/pubs/reserves
 海洋保護区の取り組みとともに零細漁業の重要性を訴えているというのは、我々にも大いに参考になると思います。保護区の研究成果を元にManagement and Exploition Areas for Benthic Resourcesという持続的利用の枠組みを提案して国に実施させたというのは協力です(何か、知床の多利用型海域管理計画に似た名前だが)。
 チリの漁業には、いくつか特徴があります
1.まず、零細漁業の定義が明確なこと(彼が提案し、国が1991年に受け入れた)。船長18m以内かつ50t以下の漁船。
2.次に、零細漁民に明確な優遇措置があること。南緯18度21'-48度28'までの距岸5マイルをArtisan Exclusive Zone(AEZ)として企業漁船を締め出しています(零細漁船は外側にもいける)。TURF*1と言うのはWFCのサブセッションのテーマでした。
3.零細漁業の漁獲量がどんどん伸びていること。70年代前半には10万トン以下だった彼らの漁獲量は2006年に189万トンになった。他方、企業漁業は1992年の600万トンから2006年の234万トンに減少した。零細漁業にも潜水などの小規模なものから中規模な小型浮魚を獲る漁船まであるらしいが、彼らの権利を明確に守っている点がすごいです。
4.小型浮魚類7種(?)については1996?年からTACとITQが導入されているとのこと。企業漁業には漁船への割当て、零細漁業には個人への割当てとしています。ほとんど漁協はないが、漁村ごとにSyndicateがあり、それが漁民の新規加入や枠配分などを取り仕切っているらしい。
5. 企業漁船については、1995年に比べて現在は漁船数が6割減らしているとのこと。これもITQにより企業買収を促している(?)ように聞こえました。
7.企業漁船についてはVMSが完備されているようです。
 要するに、ちゃんと改革すべきところはやっているのです。尊敬しました。

*1:Territorial User Rights in Fisheries=日本の漁業権のような「占有利用権」