危うい費用計算による原発論争

Date: Thu, 6 Sep 2012 14:58:25 +0900
 9月3日付の記事(「即時ゼロ」の恐れ指摘=30年の脱原発決定で想定−政府)ですが、どうにも理解に苦しみます。原発問題を考えるとき、原発の安全性、核燃料廃棄物処理問題、温室効果ガス(GHG)削減対策、電力料金などをセットで考えるのだと思います。仮に、2030年に原発ゼロを目指したときの電力料金と、今すぐ再稼働しないときの電力料金が大差ないとしても、今すぐ原発ゼロにすれば、当面は化石燃料に頼らざるを得ず、GHG削減は難しいはずです。【原発ゼロでも2030年に25%削減が可能という人は、もともと、もっとずっと大幅な削減を主張していたはずです】
 昨年は発電に関するCO2排出は増えたが、日本全体としては微減だったといいます(気候ネットワーク2012.2.15)。これは「省エネ」の効果でしょうか。経済の停滞ではないのでしょうか?(GDPあたりにすればわかるはず)
 というわけで、いろいろ検索すると、富士通総研濱崎博さんの分析がぴったりです。それによれば、「電力価格の上昇によって電力需要は低下(*3)するが、火力発電で不足分を補う結果、わが国の温室効果ガス排出量は2012年時点で、14.3%増加(*4) する。」ということです【脚注は上記サイト参照】。
 当然、電力料金が高止まりのままならば、その分だけ経済に影響するでしょう。単に、【】停滞した経済では電力が足りているという議論ではすまないはずです。GDPを上げねばならないとは言いませんが、GDPあたりのGHG排出が下がらなければ、GHG排出が下がったとしてもそれは省エネではなく、経済停滞の効果というべきでしょう。
 再稼動反対の方々も、原発の発電費用を高く見せるために、わざと放射線リスクを過剰に考えている節があります。そのために、福島周辺の生活と産業を停滞させている。今は、政府中枢にも前首相をはじめとして反原発派がいますから、原発推進派だけが情報を操作しているとはいえません。原発は採算が取れないから反対なのではなく、危険だから、廃棄物を万年単位で保管管理しなければならないからという理由が原点だったのではないでしょうか。逆に言えば、採算が取れるなら原発を推進してもよいのか、原発反対のために(少なくとも当面の)GHG排出を増やしてもよいのか、ということも考えるべきです。
 原発の今後の事故リスクについてはよくわかりませんが、放射線の低線量被曝については、福島での内部被曝が陰膳調査できわめて低いことは、すでに実証されているはずです【京大と朝日の陰膳調査のまとめ】。たまに検出される食品を食べるとしても、その内部被曝量は、自然放射線の地域差【、個人差】より【はるかに】低いものです。
 もちろん、経済の停滞、当面のCO2排出を覚悟の上で、再稼動に反対する選択肢もあるでしょう。しかし、その覚悟を周知した上で選ぶべきでしょう。