6/10知床世界遺産クマWGでの松田の発言

松田:【】確かに「対処法」で「捕獲対策」とだけ書かれているのは、ご指摘のとおりかもしれない。だが、一連のご意見・ご指摘を聞いていると、今の知床財団が第1 期の保護管理方針のとおりにやってきていなかったようにも聞こえかねず、それでは知床財団としても立つ瀬がなかろうと思料する。今の管理方針通りにやっているが解決がつかない、それどころか問題が増幅している、だからどうしたらいいか、ということだろう。検証は必要だ、それは今後やったらよい。ここには確かに捕獲だけが書かれているように見えるが、今までどちらかと言えば捕獲は控えてきているわけで、それに対するオプションとしての記述と思われ、これ以外の提案があってよいわけである。【】

松田:少ないデータでよくここまで解析されたと思う。ただ、ここに書いてあるように、結局この5 年間で生息数の推定ができていないという点こそが、大きく重い問題だと言えるだろう。第1 期方針の「管理の目的」には、「ヒグマについて、その生活様式と個体群を現行水準で維持することを目的とする」と書かれている。つまり、個体数は減らささないということであり、ヒグマの生活様式も含めて(現状を)維持するという意味だ。ご説明では、(5 歳以上の雌ヒグマの)人為的死亡数は目標を超過する可能性がある、しかし個体数が減少したかどうかは不明であり、管理の目的が達成されたか否か検証できない状況にあるということだ
 【全道の生息数推定】の計算【】で知床と書かれているのは、我々が議論している保護管理方針の対象地域である3 町ではなく、5 町であるという点と、0 歳も含まれているという点かと思う。第1期の方針策定の際、雌(の個体数は)150 という数字を踏まえて、(5 歳以上の雌の人為的死亡が)5 年間で30 頭と決めたわけだが、それとの比較が直接はできないということだ。ただ、これは是非とも比較したいと考える。つまり、0 歳を除いたら何頭なのか、150 頭より多いと思われるのか少ないのか、そのくらいは分からないと次の議論が進まないと考える。
 もう一点、議論の進め方全体について、【】ここに書かれた選択肢以外は「できない」ということか、という点だ。私は、本当にここに示された選択肢でできないなら、それ以外の選択肢も採用しうると考えている。行政的に非常に難しいのは理解するところだが、一例として先ほども話に出たように「道路では発砲できない」といったところで、知床では(エゾシカのシャープシューティングのように)前例があり、本当に必要なら色々な工夫をして実現してきている。本来、そういったことも含めて、今できる範囲のことで解決するのか否か、それを検討した上で、さらに別な選択肢を検討するべきか否かに議論を進めるべきだと思う。この資料のままに検討を進めていくと、そういう議論ができぬまま、出来るだけのことはやった、けれどもうまくいくかどうか分からない、目標が達成できるかどうかも分からない、と言いつつ次の5 年間が過ぎていくのではないかという危惧を抱く

松田:30 頭という数字は、雌150 頭という前提で、ある程度予防的な観点から個体数を減らさないという趣旨で出した数字だ。絶滅はさせないが、減らしてもよいという前提に立てば、この数字は変わる。そういう議論で間違いないか。当然のことながら、全道計画としてはそういう議論はされているわけだが、知床は世界遺産なのであるから、絶滅させなければ減らしてもよいのだとは、私自身は言いたくないし、ここにいる誰もが同じだろう。問題個体さえいないならもっと増えてもいいぐらいだ。それができるかどうかが問われている。その意味で、問題個体の増減傾向すらきちんと把握できていない、どのくらいいるのかも分からない、そういう情報が書き込まれないということこそが問題であり、そのモニタリング体制が整わないと、進まない。知床は全道よりやりやすいはずで、そうした現状認識のためのモニタリングの必要性や体制についてご検討いただきたい。これは全道計画でもお願いしたい点だ。

松田:観察できている個体のうちどの程度が問題個体かではなく、全個体の中で占める割合が必要である。しかし、全個体数が推定できていないので、割合も当然推定できない。むしろ、段階1 の個体数は見えているはずなので、ある意味では推定できるだろう。段階2 に関しては、調査から推測して上限下限を設定するということは渡島半島で前例もあるので可能と思う。行動段階1 の個体が増えていることにより(対応件数が)増加している、そのことが問題だと考えるので、行動段階1 の個体がどのくらいいるのか、それをどの程度コントロールできているのか、そういった情報が必要だ。

松田:以前伺ったときは【段階1個体数は】もっと多かったような気がするが、それはよいとして、現場では問題個体ではあるが野に放たれた状況にあり、それゆえに始終追い払っていなければならない、という点に苦慮しているのだと思う。むしろ生け捕りにしたほうが楽だという考え方も、ひょっとしたらあるかもしれない。何も殺すか放置するかの2 つだけが解決方法ではないだろう。色々な解決策があると思う。

松田:【】先ほどの説明で、段階1 の個体を追い払い続けて、結局救えていないという現実が明らかになった。これは非常に重要なことで、それならば別なやり方をすべきだという議論になると考える。
 先ほど、年に数頭であれば生け捕りという選択肢があってもよいのではないかなどと、【】軽々しく発言したが、追い払いをし続けるということは、段階1 の個体がずっと野に放たれている状況を指しているわけで、それがいつ人身事故につながるかも分からないという状況を生み出しているならば、同じ労力をかける中でもう少し選択肢の自由度を上げてもよいのではないか。【】

松田:まずこの保護管理方針だが、順応的管理という言葉が見当たらない。ヒグマの保護管理マニュアルには、個体数に応じて対応を変えると書かれているが、そういうことはこの保護管理方針には書かれていない。今の状況から個体数が増減するということではなく、問題個体数の増減【に応じた方針変更】こそが重要だが、その代わりにゾーニングと行動段階が書かれていて、それごとに対応を変えるとしている。本来は、知床のヒグマの生息個体数あるいは問題個体数に応じて、ゾーンあるいは地域ごとに対応を変えるというのが筋だろう。今はそうなっていない。モニタリングすべきこととして、全体の個体数の増減とともに、問題個体数の増減があり、それによってやり方を変えるべきである。
 今の【】委員の意見は、クマだけではなく人の側の問題もあるだろうというご指摘だ。先般、問題カメラマンその1、その2 のような資料を目にしたが、人間のモニタリングも必要だと考える。なにも人間を制御することだけとは限らない。こんな人が大勢いるようでは、クマの側に対してこういう対応は取れないということもあり得る。つまり、人間の側の対応次第ではクマへの対応を変えるということもあってよい。そういう意味で、人間側のモニタリングも行ったほうがよい。