コホート解析による水産資源量推定の問題点

Date: Tue, 29 Nov 2005 12:15:53 +1200
松田です

  • (A)「VPAは資源の一部分しか見ていないのではないだろうか,という気持ちが沸くのも理解できます。」
  • (B)「すなわち,VPAから得られる親魚量と加入量の関係の「切片はプラス」という説です。」

 このAとBはまったく別です。私は、VPA(Virtual population analysis、漁獲物の齢別年別漁獲尾数のデータなどから、魚の数を逆算する方法)には以下の欠点があると思っています

  1. 絶対資源量を過小推定している可能性がある
  2. 資源量の変動幅を過小推定している可能性がある

 いずれも、最大のガンはterminal F*1です。これを過小推定すれば(1)が生じるし、高水準期にも低水準期にも一定と仮定すれば、(2)が生じます。さすがにsingle VPAの時代ほど杜撰ではないでしょうが、適切に推定しているかどうかを実証する手段を持っていないと思います。
 しかし、○○さんの主張される上記のことは、私の(2)の主張とはむしろ逆です。絶対値として資源量を過小評価しているにせよ、一貫して減っていれば管理は必要であり、変動幅を過小評価していれば、ますます管理が必要です。
 卵数法による【マイワシ太平洋系群の過去半世紀の】変動幅は数千倍になりますから、VPAの変動幅(漁獲量ベースとそれほど変わらず、数百倍)はそれより低いです。当然、terminal Fは高水準期には需給関係から低いが、低水準期には高くなる*2と考えられます。補正はしているでしょうが、その度合いを適切に考慮しているかどうかは検証できないと思います。高水準期の浮魚類の資源量は、マイワシだけでなく、過小評価の可能性があると私は思います。
 1960年代のVPA推定値は漁獲量より少なかったりして、渡部泰輔さんの卵数法*3の資源量も過小推定で、「産卵寄与率」という私には納得できない概念が使われていた。全体として過小推定と考えるほうが妥当でしょう。1尾あたりの産卵数(およびterminal F)を過大評価しているか、卵数法などによる産卵量を過小評価していると考えるほうが妥当だと思います。
 だからといって、切片がプラスなどという荒唐無稽な議論が成り立つはずはありません。これは、漁獲対象魚種は産卵調査にかからないところで卵を産み、再生産しているという議論です。では、どこで卵を産んでいるのですか?高水準期には沖合いで大量に産んでいたと思いますが(調査船は【沖合いに広がった】産卵場の途中で引き返していた)、今、そんなことはないと思います。何か根拠がありますか?【後略】

*1:再高齢魚の漁獲死亡係数。通常これは推定できないので、適当に仮定する。その値が小さいほど資源量は多く推定される。

*2:高水準期にたくさんとると値崩れするが、低水準期には高値なので懸命に獲る

*3:調査船を出して、プランクトンネットを引いて海域別の産卵量を推定し、1尾あたりの産卵数の情報から親魚量を推定する方法