知床世界遺産海域作業部会でのトドの議論の補足

Date: Fri, 9 Mar 2007 23:05:18 +0900
 トドの捕獲数については、北海道で116頭という枠を設けていることが知床海域管理計画原案に書いてあったが、修正案では頭数の記述が削除されているので、この記述は戻してほしい。また、その科学的根拠として、PBR(潜在的生物学的捕獲数Potential Biologival Removal)との比較を検討していることなどを説明すべきである。
 私としては、116頭以下に制限する根拠はないものと考えますが、現在の実際の駆除数はそれより低いと見られることから、116頭という数字が近々見直されるとは思わないし、数字を記述すべきではない事情があるとは思いません。不満があるとすれば、まず、2,3年かけて、116頭という枠を有効に活用されることが先決だと思います。
 漁業者からの期待にこたえるために、実際の採捕数を116頭に近づけることは当面問題ないものと思います。その実績ができた後、いくつかの選択肢(駆除数の上限を増やすなど)が考えられますが、それは来年ではありません。採捕数の枠を消化していないのに、いきなり、枠を増やすという選択肢は、国際的に絶対に許容されないものです。
 IUCNが知床世界遺産でのトドの捕獲を非難しなかったという実績の重みを、よく理解していただきたいと思います。これは、トドをいくらとってもよいというお墨付きではありません。彼らの理解を早速踏みにじっては、すべてを失うでしょう。
 もちろん、これは科学者としての助言であって、選択は北海道次第です。
 ロシアが採っていない分を、日本も枠を消化していない段階ですべて日本のものと主張するのは、無理だと私は思いますが、これは外交上の問題です。科学者としては、全体のPBRのうち、全個体数に占める来遊数の比率だけを日本の捕獲枠とするのが常識だと思います。(この場合、来遊数は全個体数の一部であり、日本の許容捕獲数は現状よりずっと少なくなります)ロシアも含めた個体数全体でのPBRをすべて日本が駆除してしまうという方針を出すのは自由ですが、ロシア側の了解を得るべきだと思います。
 現在の駆除数、海没数の実態を把握するのが最初であって、捕獲数の枠を増やして始めて報告体制を構築すると言うのは本末転倒です。ミナミマグロの過少申告が露見したばかりなのに、そんなことは口が避けてもいえないはずです。
 実際に、現状で116頭を超えているとは思っていません。まず、生業枠を含めて捕獲数・海没数の実態を正確に把握する体制を構築し、不満があるようなら116頭の上限まで採捕する体制を作ることが先決です。その実績ができれば、さらにPBRの枠を個体群全体として維持しつつ、日本での捕獲枠の上限を増やすことをロシアとの交渉で勝ち取ることは可能だと思います。
 とにかく、実際にたくさん取っていない状態で、まず枠を増やすというのは、管理放棄を意味します。
 現状を直視すれば、私は資源管理にはこだわりません。資源管理が望ましいですが、生業者を管理できないなら、まず、資源管理という考え方の見直しが必要です。害獣対策のために生業者の権利を制限するというのでは、資源管理とはいえません。それはひとつの選択です。実情に見合った政策を建てるべきす。
 トドの問題は国際的にたいへんデリケートです。そして、安易な捕獲枠の修正は国際的な標的になります。そのことをよくご理解ください。