Expect Surprise 原発の耐震設計

Date: Sun, 2 Sep 2007 23:47:16 +0900
 9.1のNHKスペシャル「想定外の揺れが原発を襲った」を興味深く拝見しました。私がクローズアップ現代に出る直前の大事故で、1か月余りで、よい番組に仕上げたと思います。ただし、根本的な部分で少し異論があります。
1.新潟沖地震の可能性は柏崎刈羽原発の建設後に指摘された。中部電力は後からわかった活断層などに備えて既設の原発も補強工事を行ったが、東電は行っていなかった。
2.原発の耐震設計が想定していた揺れよりも、はるかに大きな揺れが原発を襲った。
3.変圧器の火災が起きているのに、消火できず、自治体などへの報告も後手に回った
 サイモン・レヴィン(京都賞受賞者)著「持続不可能性」(文一総合出版)には、Expect Surpriseという格言があります。環境リスク管理にも通じる格言(8つの戒めの一つ)ですが、想定外のことが起きたら管理が失敗というのでは、どんな管理も成功しないでしょう。「想定内を増やす」(さまざまな事態を予想し、事前に対策を立てろ)というのが私の提案する鉄則ですが、すべてを想定することはできません。「今の判断が間違っているかもしれないことを自覚せよ」というのも私の順応的管理の7つの鉄則です。
 そのために、リスク管理では安全率という概念があります。化学物質などで、本当はこの濃度で安全なはずだが、さらに10倍厳しくしたりします。今回の原発も、安全率をどこまで意図していたかはともかく、想定した揺れよりも強い揺れに耐えうる強度に結果として設計し、大丈夫だったといえます。
 上記の報道にあったように、いろいろ反省すべき点はあるでしょうが、想定外のことが起きたら即失敗とは言えません。結果として大事故に至らなかったことを評価すべきだと思います。問題は、あれより大きな揺れが原発を襲う可能性が、現時点の知見でどの程度あるかです。番組では、1000年間大地震がないところが危ないと指摘すると同時に、過去に起きた場所も危ないと言っているように聞こえました。おそらく、中部電力が補強しているなら、他の原発も補強することになるでしょう。その上で、さらにどの程度のリスクが残るかを専門家に議論してほしいものです。数10年に一度なのか、1万年に1度なのか、誰も指摘していません。
 いずれにしても、さまざまな計算をして、想定外のことが起きたら即壊れるようなギリギリの設計はしないほうがよいでしょう。伝統的な日本の技術の信用(安心)というのは、まじめに作業することで、想定外にも耐えられる質の高さにあったと思います。
 そのことと、はたして今後も日本が原発に大きく依存すべきかどうかは別のことだと思います。跡地を半永久的に利用できないことが、原発の最大の問題だと私は思います。