ユネスコ人と生物圏会議(MAB-ICC)報告

 UNESCOのMAB(人と生物圏)計画の国際調整委員会(ICC)が5月25-30日にかけて韓国済州島で開催され、参加した。当初は並行開催のInternational Workshop on Climate Change in Biosphere Reservesにのみ27日午前中まで参加する予定だったが、文科省の要請を受け、急遽28日午前中まで滞在し、随時本会議(ICC)も傍聴した。とはいえ、会議場が離れていたため、こまめな移動はできなかった。
 会議資料などは下記のサイトにあります。
議題 http://www.unesco.org/mab/doc/icc/2009/e_agenda.pdf
日程 http://www.unesco.org/mab/doc/icc/2009/meetingInfo.pdf (含む副行事)
全資料http://portal.unesco.org/science/en/ev.php-URL_ID=7418&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html
主催者報告 http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=30924&Cr=unesco&Cr1=
http://portal.unesco.org/science/en/ev.php-URL_ID=4793&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html

Date: Sun, 24 May 2009 11:42:47 +0900
 ご依頼のMAB−ICC会議の件ですが、新規登録と改訂の議題を傍聴する上で、以下の情報を教えていただけませんか?
・現在日本でBRに登録されている 4地域のおよその境界(Zoning)の資料をメール添付で送ってください(分かる範囲で)
(理由)
・私の記憶では、4地域はいわゆるCore、Buffer, TraisitionというZoningが定着する前の登録で、Zoningがないかもしれません。だとすれば、日本でBR理念を浸透させるには、新規登録とともに、これら4地域(のどれか)でZoningを明確にする(Extension/modifyする)ことも重要でしょう。 少なくとも、屋久島では世界遺産のReviewも行いますから、その作業は準備可能でしょう。(大台ケ原でも、シカ問題が深刻であり、周囲のBuffer、Transitと一体となった管理が必須です)
 候補地の南アルプスも鹿問題を抱えており、それぞれの価値は違うものの、共通る問題があります。これは世界でも普遍的な問題になりつつあります。スペインのDonana(BR)を視察したときもシカ類過剰、自然植生被害の問題を聞きました。
 屋久島は世界自然遺産(WNH)との重複登録であり、全く別々にReviewをするのはいかにも縦割り行政です。BRとWNHとの連携を図ることが重要でしょう。ちょうど私が世界遺産科学委員も兼ねています(6.28の屋久島WNHの科学委員会に文科省がObserver参加する予定はありますか?)。
 生物多様性条約と気候変動との連携、多様なStakeholderとの社会的連携を図るというUNESCOの理念から見て、里山を登録することはきわめて重要なはずです。
・気候変動CCとの関係では、多くの生態系がCCと他の人為影響の複合影響が深刻なことから、制御可能な他の要因をCareする取り組みが重視されます。また、BRからCCへの取り組み(MAPにあるCO2Offsett, Biodiversity Credit、再生エネルギー振興など)をアピールすることも重要と思います。CO2Offsetはぜひ検討すべきでしょう。
 また、Transit/Buffer Zoneが明記されれば、そこに風発を作る(しっかりした環境影響評価とStakeholderの合意を図る)前例を作れば大きなApealになります。

Date: Tue, 26 May 2009 08:56:25 +0900
  今回の議題にも明記されていますが、過去に登録されたBRについても、現在のMAP(マドリッド行動計画)の理念に基づいて見直すことが重要です。他国がどこまでまじめにやるかはわかりませんが、少なくとも屋久島では世界遺産もあり、やるべきでしょう(環境省屋久世界遺産保全をMABと整合する形で考えればの話ですが)。シカ問題と観光客踏み荒らし問題(気候変動問題は屋久島は標高差が売り物なので、他よりはずっと頑健なはず)がある限り、遺産登録地域(≒BR核心地域)だけでは保全できません。BRと整合した管理計画がなされるでしょう。
 また、大台ケ原に広大なBufferAreaがあることを始めて知りました*1。たいへんよいことです。これをシカ対策に生かすことが重要でしょう。ただし、核心地域が緩衝帯に完全には囲まれていない点は、厳密には訂正が必要でしょう。
 それでは、午前中はMABの新登録地域の採否です。たくさん採択されそうですが、条件付採択と延期も多いですね。また報告します。
 見れば見るほど、知床もBRにこれから指定すべきですね。今日聞いてみますが、世界遺産をBRに追指定した例は世界になく(?)、やればMAB関係者は大歓迎かもしれません。

Date: Fri, 29 May 2009 00:10:20 +0900
 先ほど、無事成田に着きました。
 多くの人から、日本はいくつBRがあるのかときかれました。他の国はBRを指定し、その活動を紹介しに来ています。それをしていないのは私くらいでしょう。また、若手研究者の奨励賞の国別人数がありましたが、たくさんの国に受賞者がいるのに(ユネスコに疎い米国にすらいるのに)、日本人はいないのですね(ドイツ人もいませんが)。
 こうした国際会議は、IWCとUNCLOS関係に参加した経験があるだけですが、それらが対立と環境団体のロビー活動を抱えて、深夜までもめるのに対し、議長団を皆が尊重し、とても順調に議事が運ぶことに感銘を受けました。持続可能な利用のための自然保護と言う、まさに日本が言いたいことも最も主張している機関なのに、日本の存在感がほとんどないのは大変もったいないことだと思いました。
 来年のCOP10でも里山を重視するのに、里山をBRに指定しないのは残念ですね。環境省農水省が見たらとてもがっかりすることでしょう。綾などは絶好の場所だと思います。
 今回、BRが気候変動対策にも大いに貢献しようと取り組んでいることがわかりました。単純に言えば、BRは気候変動対策の拠点であり、温暖化による生態系への脅威を緩和する取り組みも必要とされます。CO2クレジット、再生エネルギーなど、以前表参道でイシュワランさんのスライドに既に明記されていました。
   また、多くの人が西表に行ったことがあることにも驚きました。昨年行った人ばかりでなく、ずいぶん前に行った人もいました。今年BRに登録された20のうちのどこかに行ったことがあるかと聞いたら、ないと答える人ばかりなのに。