Date: Sat, 10 Apr 2010 04:44:01 +0900
>●研究ではどのようなことに挑戦されているか、具体的な内容を教えてください。
社会に受け入れられる、実現可能な環境政策を提案すること。
生態系の変化に対して、不確実性を考慮したリスク管理を提案すること。
具体的に手がけていることは、たとえば以下のとおりです
・野生動物管理(シカ:知床、北海道、丹沢、屋久島、ヒグマ;カワウ;滋賀など)
・漁業管理(サバ、クロマグロ、サンマなど;ワシントン条約への対応)
・リスクトレードオフ(再生エネルギーにして鳥が衝突する風力発電)
・世界遺産、人間と生物圏(MAB)計画の合意形成(知床、屋久島)
・レッドデータブックデータベースなど生物多様性基礎調査データの環境影響評価への応用(愛知万博、中池見LNG基地計画)
・象牙の塔の空論と、地域で具体的に工夫している知識人との乖離を埋める(地域環境学ネットワークの活動)
>●研究される背景にはどのような問題や実態が世界的にあるのでしょうか?
・自然保護が定量的に(数字で)議論されず、保護か開発かの二項対立に陥っている。
・不確実性を無視した一通りの将来予測と、不可知論のどちらかになっている
・現在までの自然破壊が誇張され、逆に未来の目標は高すぎて実現できない。生態系が脆弱と誤解し、自然が人知を超えた存在であることを忘れている。
・先進国と途上国など、利害対立を科学者が調停するのではなく、科学者がどちらかの側に立って対立をあおっている(生物多様性条約、ワシントン条約)。科学者に価値観を離れた政策提言ができると誤解している。
>●先生の研究によりどんな未来を築くことができるのでしょうか?
・わからないことをわからないなりに対処する順応的リスク管理という、科学万能論を超えた自然観の提示
・利害対立を超えた調停者としての環境科学者の役割の普及
>●研究しているなかで、苦労された点はありましたか?
・知的所有権に関する意識。未公開情報が多すぎるので使えない
・行政と科学者の関係。科学者が国を「代表」する立場になったときの意識改革
・逆に、環境団体の味方をすることが科学者の責任と言う誤解
>●今後、先生と一緒に研究したいと思っている学生へアドバイスを。
・環境政策は歴史が浅い。20年後に否定される知見や政策も混ざっているはずだ(過去の例ではダイオキシン、新型流感への過剰反応)
・一通りの未来を描かず、不確実性を考慮したリスク評価をすること
・想定内を増やすこと(複数の未来を想定してそれぞれの対策を考えること)
・すぐに合意できないことでも、数年後を互いに予想しあって検証手段を整えれば、数年後には合意できる。将来合意するための布石を打つこと
・利害関係者が多様であることを直視し、尊重し、彼らが納得できる調停案を考えること
・評価と政策は明確に。ただし、それが不完全な理解であることを忘れずに(Seek simplicity, but distrust it)
・私が教える数学的技法は、上記を実行するために役立つ技法である。
私のホームページには、これらの情報が掲載されています。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda