Date: Thu, 3 Jun 2010 06:04:26 +0900
科学者の役割とは何か、世界遺産登録の過程は我々にとってはその模索でした。2008年の視察団に対して行政でなく科学者や漁協が説明するという構図は、2005年当時には考えもつかなかったと私は思います。そして、【この構図】が評価されたと理解します。
これは単に科学者の意見が尊重されるということではありません。むしろ逆で、利害関係者にWin Winの関係を導き、かつ自然を適切に管理するSolutionを提案する調停者としての科学者の役割【が評価されたの】だと思います。最も端的なのは、「規制なき海域拡大」「漁協自らが海域の保護レベルを上げる」という解だと思います。
この解は、政府と道知事が漁協に約束したこととIUCNの審査意見の両方の「制約」を満たす【論理的に唯一の】解でした。科学者が自由に理想を語るなら、この解は生まれなかった。そして本当に、漁協はスケトウダラ季節禁漁区を拡大しました。それが、図らずも【】日本漁業の共同管理の有効性を世界に英語で説明する機会となりました(これは結果論だが、偶然ではありません)。
初期の頃は【】新聞の変なすっぱ抜き記事で右往左往しましたが、この過程で信頼関係が醸成され、昨年の海中公園報道のときは地元もきわめて冷静だったと聞いています。
河川工作物においても、結論をはじめから決めずに、期限を区切った評価体制とモニタリング体制を作り上げ、その結果を見ながら順応的に必要な対策を講じるという方法が奏功したと思います。
シカ対策は、最も原生的な知床岬での大量捕獲という壮大な実験を行いました。最初は「とても地域の合意を得られない」という意見が多かったですが、「科学者は必要なことを提案し、地域の判断に委ねる」という立場に徹【し】、比較的早く合意が得られつつあると思います。【】森林更新がほぼ完全に阻害されているというデータが、今までの世界遺産管理の「常識」を覆す合意をもたらしたのだと思います。
こ【うした】科学委員会の役割は、自明のものではありません。たとえば生物多様性条約における科学者(DIVERSITAS)の立場はだいぶ違います。科学者の役割を増やそうという表面を見れば同じですが、地域社会や利害関係者との調停という意味ではむしろ逆です。気候変動枠組条約やワシントン条約のこの1年間の一連の対立をみると、科学者は締約国の対立を調停するどころか、【】現場を見ないで理想を語り、その一方を煽っているだけにも見えます。この点は【COP10】事前会議で彼らに壇上から指摘したのですが、たぶん理解されていないでしょう。
COP10も ワシントン条約以上の対立の場になると【心配して】います。まだ「知床方式」は国際条約には取り入れられていませんが、紛糾すれば、我々の出番が来るかもしれません。
もう一つ、日中露オホーツク生態系保全共同宣言・コンソーシアム設立も大きな一歩でした。これも、科学者の大きな役割の一つだと思います。
Date: Thu, 3 Jun 2010 21:18:43 +0900
そういえば、CoP10対応の「環境省生物多様性総合評価報告書」(Japan Biodiversity Outlook)も、本来は環境省名義で公表する予定だったと思いますが、検討委員会(中静座長)名義で公表しました。省庁間の調整がたいへんで、科学者に下駄を預けたのかもしれません。Public Commentを募って意見集約を図りましたから、【】私はこれでよいと思っています。