トド捕獲駆除数 の報道

Date: Wed, 15 Aug 2007 12:02:31 +0900 (JST)
>水産庁記者発表資料 http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/081001.pdf
 まず、水産庁自身は【捕獲駆除数】が227頭とは言っていません。報道からは誤解されますね。227頭は混獲など、すべての人為死亡の合計値を算定したものです。混獲数や過去の水没数の実態は不明ですが、これらをある程度推定した結果、「採捕許容数は海没を含め最小で120 頭」としているはずです。現行の116頭とほぼ同じ数字です。
 「混獲数を把握する体制が整備されるまでは、混獲数は最大限安全な値をとる」ということから、混獲数は最大の107頭、よって駆除上限は120頭が「望ましい」ということです。ただし、「混獲数を随時把握する体制が整備され」、実際の混獲数がこれより少ないことがわかれば、「より柔軟な管理」として、駆除上限を増やすことも可能でしょう。ただし、混獲数が予想より多かった場合などは、「現時点での情報に基づく暫定的な評価であり、今後情報の整備により順応的に見直す」必要があります。
 次に、ご質問の「227頭の根拠」ですが、水産庁記者発表にある通り、PBR(生物学的間引き可能量)という概念で求めたもので、上記資料P11にある PBR= NMIN×0.5RMAX×FR から求めています(まだ論文にしていない)。
ここでNmin:最小資源豊度推定 Rmax:最大純生産率 Fr:米国のEndangered Species Act の下で定められるランクに適用される回復係数 です。
 P12にある表から、Nminを5063頭と推定し、Rmaxは年12%、Frは0.5と1の中間の0.75を用いていることがわかります。これで227頭です。これには混獲なども含まれていますが、混獲数の統計がありません。そこで、55-107頭の間と推定し、その上限値と想定し、227-107=120頭としたものでしょう。
 いくつか疑問がでることが想定されます。

  1. この試算値はまだPeer reviewを受けたものではない(私を含む検討委員が原案に対しては意見を述べました)。専門学会の審査を経た査読論文にする必要があります(その過程で、120または227頭という数字が変わる可能性があります)。
  2. 混獲数の根拠が薄弱である。 これは、Underreportの少ない信頼できる統計をすぐにでも集約して公表する体制を取らないといけません。
  3. Frとして0.5と1の中間を用いていますが、18年前までトドはEN(またはCR)に該当するほど減っていた種です。ENなら0.1を用いるべきで、現在は回復しつつあるからVU(0.5)でよいと私は思いますが、回復傾向を根拠に0.75を用いています。これが妥当かは、もう少し時間をかけて判断すべきかもしれません。
  4. Nminの算定根拠がわかりにくいと思います。冬季来遊推定数6767頭をそのまま用いるのではなく、P11にあるように、60%信頼区間の下限値を用いていると書いています。冬季来遊数ではなく、ロシアにとどまる個体群全体を用いるべきだったかもしれませんが、ロシアが「禁漁」しているとすれば、PBRはずっと大きくなるでしょう。ただ、ロシアが保護した分だけ日本が取れるというのは好ましくないと私は思います。
  5. 多くの仮定を積み上げているように見えるかもしれませんが、確かなことは、116頭に制限してから、トド個体群は回復に向かい続けているということです。現状以上に厳しくする必要はないと思います。必要なことは、捕獲数や混獲数の実態を明らかにして国際的な説明責任を果たすことと、個体数の増減を把握し続けて資源回復過程を維持するよう管理し、漁業とトドの両立を図ることです。

 今後、採捕数と混獲頭数が今後明らかになっていくことが大切だと思います。肝心の、捕獲統計がこの資料にはありませんが、これは別途説明されるものと思います。