科学を無視し、圧力団体に牛耳られるワシントン条約と東京都象牙会議

目次

2020/3/27 加筆 羽山伸一「野生動物問題とは何か」FB2020/3/26

今月号の東大出版会「UP」に羽山伸一さんがこう書いている。”前橋市など平野部の市街地で人身被害等が頻発”。”これらの現象は、「開発で山に餌がないから街へ出るようになった」と安易に解説するような事態ではない。”“2018年に岐阜県で、わが国では28年ぶりとなるCSF[豚熱]が発生し、イノシシに感染してしまった。28年前にはイノシシが平野部に生息する状況ではなかったこともあり、イノシシへの感染対策は準備すらできていなかった。”“野生動物問題は、人間と野生動物がいる限り、未来永劫続くものであるという認識が政策決定者に欠けている。もう、頭を切り替えるべきだ” (引用終わり)
東京都もNY州も、野生のシカを駆除している。そして、東京都は、アフリカで人身被害を起こすアフリカゾウを駆除させない運動に加担しようとしている。

今猛威を振るっているコロナ禍も、人獣共通感染症といわれる。野生動物が増えるのはよいことと思うが、人間と野生動物の距離をどう置くかが問われている。

野生ゾウの群れが住宅襲撃 食べ物あさり屋根を破壊--絶滅危惧種アジアゾウでも、住宅に群れが侵入する被害が出ている。それはスリランカでも同じだ(論座拙稿後半)。 

2020/3/25 圧力団体の声のみを委員に紹介する東京都「象牙会議」

自治体の委員会で、自治体事務局が圧力団体からの陳情書を率先して委員に回覧するのはかなり異例だ。 それに対して、CITES元事務局長からの都知事あての書簡は、1週間前から再三申し入れているにもかかわらず、委員に共有していない。CITES専門家は、象牙市場閉鎖はゾウの保全に逆効果であると訴えている。(台湾からの)不正輸出が日本で消費され、乱獲に歯止めがかけられないのは、むしろニホンウナギである。東京都は、ニホンウナギの流通については、【象牙と同様に国より率先して、例えば台湾から違法に輸出されたうなぎの流通に対して】対応する気配はない。専門家の科学的見解が無視され、圧力団体の声のみに同調する姿勢は、象牙に限らず、極めて危険である。

 東京都有識者会議事務方よりの電子メール 2020年3月17日 12:33 件名: 環境団体からの提言書について

有識者会議」委員の皆さま(宛先多数のためBCCにてお送りしております。) いつもお世話になっております。東京都政策企画局のxxです。 昨日、東京都知事宛に添付の提言書が届きました。委員の皆さま宛にも写しが送付されているとのことですが、ご参考までにご連絡させていただきます。何卒宜しくお願いいたします*1

 松田の事務方宛の返信メール March 17, 2020 5:27 PM

なお、先ほど「環境」団体からの提言書を回覧いただきましたが、一方の資料だけを回覧することは大変残念です。

 昨年5月に東京都知事、関係大臣あてに送られたCITES元事務局長の書簡には、以下のようにはっきりと、象牙市場閉鎖はゾウの保全に逆効果である旨が記されている。

We would like to point out that if Japan closes its domestic ivory market, as suggested by Mayor de Blasio, this will do more harm than good to the cause of elephant conservation. To the contrary, we urge Japan to support moves to restart a carefully controlled global trade in registered ivory because this will truly aid elephant conservation.

 この有識者会議の阪口功座長も、学術図書では以下のように述べている。

AESGは、科学的知識と付属書掲載基準(ルール)に基づき、COP7に対して象牙取引にモラトリアムを課した上で健全な個体群を付属書IIに据え置くことを一致した見解として勧告していた。しかし、COP7では数的優位に立っていた取引反対派は自国の利益を最大化させる戦略を取り、あくまでも全個体群の付属書掲載を貫徹しようとした。その結果、COP7では科学的知識、専門家の勧告、付属書掲載基準が広範に無視され、すべての個体群が付属書Iに掲載されることになった。 (阪口功著『地球環境ガバナンスとレジームの発展プロセス-ワシントン条約NGO・国家』国際書院, 2006 P258。下線引用者)

阪口座長の前回有識者会議での見解は以下である。

私が書いた本の中でも、ジンバブエボツワナの持続的な利用プログラムと、非常に高く評価しており、彼らも正しいことをしているがゆえに個体数も安定して、むしろ増加していると。
他方で、国際機関の研究者として、彼らの活動をサポートするには、ワシントン条約会議で3分の2の賛成を得て、もう一度、ワン・オフ・セールという、一度限りの象牙取引というものも認めてもらう必要もあると。これは非常に困難なことであります。日本に違法取引の市場がまだ残っている状況では、3の2の賛成を得ることは難しいと。もし、我々、この有識者会議で特定の方向に進んで今議論を進めようとしているわけでは決してなくて、オープンマインドに議論していただくということになるわけですが、もし仮に彼らのプログラムを支えようとするならば、都として、国として、諸外国から十分な取引規制が行われているというふうな評価を得られるような体制が必要となってくる。まさしく、都でこういった議論がこれから進められるのであれば、非常にうれしいことであるかなと考えております。  

持続的利用のために違法取引を規制することと市場閉鎖は全く別物である。彼は別のところで以下のように言っているようだが、日本で流通している象牙は(少なくともほとんどは)密猟された象牙ではない。それはCITES資料でも、環境省サイト(問6)でも説明されている。

阪口氏によれば、密猟された象牙はアフリカや香港の輸出業者が作成した不正許可証を貼られ、あらゆるルートを通って、日本へ到着する頃には合法象牙に姿を変えているのだ。

ではなぜ、象牙の持続的利用が必要なのか。それは、アフリカにおける人と野生動物の関係にかかわる。 (これは次回有識者会議*2で述べる予定。松田論座岩井雪乃氏のサイトも参照)そもそも、東京都も野生動物であるニホンジカなどを捕殺している。ニューヨーク州その周辺も同様だ。むしろ狩猟を奨励している。しかし、一部の「環境団体」の国際的な圧力により、アフリカではゾウの捕殺は厳しく制限されている。

 ちなみに、ニホンウナギは、本当に台湾から香港に不正輸出されて日本に流通し、日本人が消費している。こちらの規制を急ぐよう都知事に申し入れたが、今のところ、対策をとる気配はなく、政府が取り組めば同調するという都水産課からの返事だ。

 専門家の科学的見解が無視され、圧力団体の声のみに同調する姿勢は、象牙に限らず、極めて危険である。

2020/3/27加筆 テレビ東京タンザニアの象害問題 FB2020/3/17 

【3/16】放送のテレビ東京の番組早稲田大学の岩井雪乃先生がタンザニアでゾウの被害と取り組む様子がよくわかった。(3時間番組の1:43’11”から26分間弱)。野生の象は保護区の隣の村を襲い人を殺している。住民は象を憎んでいる。それなのに政府は被害者に補償せず、国際団体と政府が象を保護している。これでは住民が村からいなくならない限り解決しないだろう。

*1:なお、この「環境団体」の書簡は今年3月12日付だが、コロナ禍については何の言及もない。 

*2:4/13と4/16に2度会議を行う予定。この大変な時期に、何でそんなに急ぐのか。