本日出演するニュースでの問答予定は以下の通りです。
<Q0>大消費国・日本に対する国際的な批判についてどうお考えですか?
まず、マグロの漁業管理の話と「寿司好きな日本人」の話は分けて考えるべきだと思います。米国でもすし屋はこの10年ほどで飛躍的に増えていますから。
しかし、私は今の日本人はマグロを食べすぎていると思います。持続可能な供給量から見て、マグロは贅沢品として食べるくらいでちょうど良いでしょう。
マグロ資源が減っているというのは確かであり、資源管理は必要です。しかし、9割減っているというのは見当違いだと思います。これは世界のマグロ資源学者が皆反対しています。ミナミマグロに絶滅の恐れはないことに反論できないことは世界の絶滅危惧種にマグロを載せた専門家も認めていながら*1、掲載そのものは撤回せず、外国の環境団体が絶滅危惧種に載っているからといってマグロ漁業そのものを批判する。この反マグロ宣伝は感心しませんね。
<質問1>マグロ漁船の一部を廃船にするなどの措置は、海洋資源の管理にどれくらい効果がある手段なのでしょうか?
程度問題ですが、効果は大きいと思います。マグロの資源管理において、最大の問題の一つは漁船の過剰です。漁業で成り立っている船がいる以上、獲るなといってもなかなか聞いてもらえません。数十年後の資源を守ることより、その船が廃船になるまでの収益が彼らの最大の関心です。思い切って船を減らせば、管理はうまく行きやすくなるでしょう。
CCSBT(ミナミマグロ保存委員会)では漁獲量の過少申告が大問題になっていると聞いています。過少申告した国は信用を失い、きわめて厳しい措置になります。今後はマグロ全体として、漁獲量の市場での監視の目がずっと厳しくなるでしょう。これ以上ごまかせば、マグロは鯨よりもひどい運命をたどります。私は国際会議に行くたびに日本の捕鯨再開を支持していますが、今後も漁獲量がごまかされ続けるなら、マグロ漁業は擁護できません。
<質問2>台湾がマグロ・ロンダリングや便宜置籍船をしてとっていたマグロのほとんどが日本に輸出されていた、ということで、海洋資源の管理がうまくいかない遠因として、日本への批判もあるようですが、先生は、その点、いかがお考えでしょうか?
はい。日本には世界最大の水産物輸入国として無責任漁業による水産物を結果として輸入している責任があります。また、以前日本漁船が減船したときに廃船にせず、便宜置籍船といって外国に払い下げてしまった責任もあります。批判は厳粛に受け止めるべきでしょう。逆に言えば、日本が適正に管理されているものだけを輸入していれば、世界の漁業管理を進めることができるはずです。日本は「責任あるまぐろ漁業推進機構」OPRTという国際NGOを作り(2000年12月)、日本が外国に払い下げたマグロ漁船を廃船にする等の努力をしています。ようやく、大西洋、インド洋など各水域毎にあるマグロの国際漁業管理機関に登録されたマグロ漁船の獲ったマグロだけを輸入する国際的な仕組みができたと聞いています。
<質問3>世界的に魚介類の消費量が急増している(40年で3倍以上)ということですが、消費が増える、つまり需要が増えることでの、海洋資源管理の難しさはどのようなものがあるのでしょうか?
世界の食糧問題の中で、魚介類はまだよいほうだと思います。農産物はこれ以上増やせないどころか、現状でも深刻な水不足が懸念されています。魚介類も問題ですが、プランクトンを食べるカタクチイワシなどは全体としてはまだ膨大に余っていますから、有効に利用すればまだ増産可能です。
<質問4>
難しいことではなく、単純明快なことをまず実現することです。
イワシなどの小型魚は自然に増えたり減ったりします。1980年代末に450万トン獲ってから減ったのは乱獲ではありません。しかし、減った今でも獲り続けているのは乱獲です。
第1に、減ったマイワシは獲らずにあまっているカタクチイワシを利用することです。
第2に子供の魚をとらずに大人の魚を獲ることです。
第3に、イワシをハマチなどの養殖の餌に使うのではなく、イワシを直接人間が食べる技術と市場を開発することです。
第4に、「もったいない」精神を生かして魚を捨てないこと。日本の商社は金儲けだけ考えずに資源を有効に利用することを考えて欲しい。魚の洋上投棄が問題になっていますが、残飯を出さないことも大切です。
<質問5>
日本では、主要な環境団体や生態学者と水産学者の言うことがほとんど変わらなくなって来ています。日本が自慢できるものは、世界一の女性の平均寿命を支える健康志向と、森林に支えられた先進国としては比較的豊かな生物多様性です。欧米では過剰に肉を食べる人から最近の生態学の学生のように菜食主義に変わるような極端な振る舞いが目立ちます。そして自分の思想を世界に押し付ける。反捕鯨国にとって彼らの知らない日本の捕鯨業界だけが困るような自然保護運動ではうまく行きません。もっと冷静に、海の幸をありがたく食べる姿勢があれば、利用と保全の両立を計ることができるでしょう。今、生物多様性条約では「順応的管理」という新たな考え方が推奨されています。このおおもとは漁業管理のモデルであり、国際捕鯨委員会の科学委員会で培われた改訂管理方式です。この考え方をさらに進めることが大切です。
必要なことは実際に管理に成功した実績を積むことです。商業捕鯨の再開はその有力な候補です。日本の環境団体も輪に加わって、保全と利用の両立を図ることが大切です。
*1:G. Mace女史からは “I cannot disagree that the tuna is very unlikely to go extinct in the next three generations, however it does qualify under criterion A” July 11, 1996という書簡がきた